ピッチャープレートを踏む位置
投手によりピッチャープレートの3塁側を踏んで投げる人もいれば、1塁側の人もいます。
踏み位置の違いによる主な効果は、リリースポイントの左右位置が変わることです。
右投手であれば三塁側を踏む方が角度がついてよいとされていますが、最近では一塁側を踏む投手も増えています。
ホームベース一個分
踏む位置によりリリースポイントはどのくらい変わるでしょうか?
ピッチャープレートの横幅は60.96cmです。投手の足の大きさを切りよく30cmとすれば、ルール上ボークにならない範囲で最大90cmも変えることができます。(下図左)
しかしプロやメージャーの投手の実態をみると、そこまではしていません。
三塁側を踏む涌井投手、一塁側を踏むバウアー、大谷翔平投手など大半の投手は足が全部プレートに収まるように置きます。西勇輝投手は変則的で、一塁側で半分はみ出させています。
いずれにしても、つま先はプレートにかけて投げています。その方が軸足をプレートに引っ掛けて蹴る感覚で、地面からの反力を得やすいためと考えられます。
そのため、実際の踏み位置によるリリースポイントの変化は最大で45cmほどになります。(図右)
これはホームベースの横幅(43.2cm)とほぼ同じです。
踏み位置を変えた場合のシュート軌道計算
ピッチャープレートの踏み位置の違いにより、投球軌道はどのように変わるでしょうか?
横方向の変化球としてシュートで軌道計算をしてみます。
[計算条件]
三塁側を踏んだ場合のリリースポイントをセンターラインから60cm三塁より(yo=-0.60m)とし、一塁側はそれより45cm内側(yo=-0.15m)とします。
シュートは球速140km/h、回転数2200rpmで抗力係数CD=0.40、揚力係数CL=0.20、回転軸はバックスピンからサイドスピン側へ55度傾いているとします。
参考のストレートは球速145km/h、回転数2200rpm、CD=0.40,CL=0.19、回転軸はバックスピンから20度傾いているとします。
[計算結果]
計算結果は以下のようです。
まず、オーソドックスな3塁側を踏んで投げた場合です。
ストレートは斜めに真っすぐ飛んできて、ストライクゾーンの真ん中を通過する軌道です。次に、近年増えてきた1塁側を踏んで投げた場合です。
上下の軌道は3塁側の時と同じのため、x-zプロットは省略しました。
どちらの場合もストレートなら真ん中に来る軌道から、右打者インコースのボールゾーンへ曲がってきます。曲がり幅の違いはありません。
シュート同士で比較
両者のシュートのみを重ねてプロットすると以下のようです。
x-yプロット上の黒破線は、ホームベース右端のライン(y=-0.216m)です。
また、リリースポイントの違いが分かりやすいようy-zプロットも追加しました。
3塁側を踏んで投げたシュートは、斜めに投げ出され、ストライクゾーンに入ってくるかと思いきや曲がって入ってこない軌道です。黒破線(y=-0.216m)の外(y=-0.60m)からリリースされ、曲がってずっと破線の外側を通ります。
1塁側を踏んだ場合は、真っすぐ投げ出され、そのままストライクゾーンの中をくるのかなと思きや曲がって外へ出ていく軌道です。黒破線(y=-0.216m)の内側(y=-0.15m)からリリースされ、破線の外へ曲がっていきます。
3塁側を踏んで投げたシュートはずっとボールゾーンを通る軌道であり、1塁側を踏んで投げたシュートはストライクゾーンからボールゾーンへ逃げていく軌道です。
三塁側「ボールからボール」→一塁側「ストライクに見える」
柳裕也投手は、ホークアイの映像を参考に踏み位置を一塁側へ変え、はみ出していたリリースポイントをホームプレートの中に入れることで「ボールからボール」だったシュート軌道を「ストライクに見える」ように改良したそうです。その結果、今期2戦目以降は好投が続いています。(*1)
私は渋谷真さんの記事が好きでいつも目を通すのですが、この話は特に面白くて興味が沸き今回の計算をしてみました。確かにそのような軌道になるという結果を得られてとても満足してます。
一塁側を踏んで負担減
また、同じコースに投げても三塁側を踏むと角度がつく分、深くねじられた体は窮屈で負担がかかります。
今回の計算では三塁側を踏んで投げた場合、x軸に平行から左打席側に向かってΦ=2.3度の角度をつけて投げ出されます。これが一塁側を踏んだ場合はΦ=0.8度ですみます。
一塁側を踏んだ方が1.5度、体が楽な状態で投げることができます。
ソフトバンク和田投手(左投げ)は、クロスファイヤーでは負担がかかるため三塁側を踏むように変えたそうです。(*2) これが全てではないでしょうが、松坂世代最後の生き残りとして42歳の今シーズンも元気に一軍で投げ続けています。
参考文献
(*1)中日スポーツ 2023年4月28日版
(*2)週刊ベースボールonline
https://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail&id=002-20160620-03
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