2020年11月14日土曜日

第42回 大谷翔平の回転数が少ないのはなぜか?



平均より6%少ない       


大谷翔平は投手として、日本人最速の4シームを投げます。世界でもトップクラスです。

しかしその一方で、回転数の少なさが指摘されています。

時速100マイルを超える球を投げながら空振りをとれずファールにされる度に「回転数が少ないから球速のわりに当てやすい」と、ヒットを打たれたわけでもないのに悪く言われてしまいます。

4シームの回転数というのは球速に比例する傾向があり、球速100マイルの場合の平均的な回転数は2320rpm程です。
(rpmはrevolutions per minutesの略で、一分間あたりの回転数を表します。)

一方トラックマンで測定された大谷投手の100マイル時の回転数は2180rpmで、平均よりも6%程少なくなっています。

ちなみに人類最速の球を投げることで有名なチャップマンの100マイル時の回転数は2680rpmで、平均よりも16%も大きくなっています。
球速だけでなく、回転数も群を抜いています。


4シームの威力に影響しているかは別として、大谷投手の回転数が少ないというの事実のようです。

では、なぜ大谷投手の球は回転数が平均よりも少ないのでしょうか



指のフックを保ちたい       


4シームの場合、人差し指と中指の二本をボールに沿うようフックを作って握ります。



リリースの瞬間この二本の指はボールを前方に強く押しています。
そして、その反作用としてこの二本の指はボールから後方への慣性力を受けます。

このとき握力が弱いと指が伸ばされてしまい、その結果ボールにあまり回転がかからなくなります。

回転数の多い球を投げるためには、リリースの瞬間まで人差し指と中指のフックを保つことが必要であり、そのためにはボールに押し負けないよう握力がかかっている必要があります



回転数の多い投手との違い       


藤川球児、和田毅、山本昌。

大谷投手とは反対に回転数が多いと言われている投手たちです。

彼らと大谷投手のリリースの瞬間の写真を見比べてみると、ある違いがあることに気が付きます。

分かるでしょうか?
















それは、グラブの形です。

回転数の多い投手のグラブは握りつぶされています。

一方、大谷投手はグラブを開いたまま投げています。



左がグーなら、右もグー       


人間の体には連合反応という性質があります。

片方の手を動かすと、もう一方もそれに連動して同じように動く性質のことです。

握力に関してもそうです。

歩くときや走るときに、手を握っている人もいれば、開いている人もいます。
人それぞれです。

しかしどんな人でも必ず両手は同じ形になっています。

右手をグー、左手をパーにして歩いたり走ったりする人はいません。

無意識のうちに右手がパーなら左手もパー、右がグーなら左もグーになっています。

片方をグーにするともう一方も自然と握力がかかるわけです。

投球においても同じで、左手でグラブを握りつぶせば自然とボールを持った右手にも握力がかかるのです。

しかし大谷投手は何らかの理由でグラブ側の手を開いたまま投げているため、右手のフックが弱まってしまい、その結果回転数が減少してしまっていると考えられます。



投げるための道具       


投手にとってはグラブは投げるための道具です。

そのため大抵の投手は、下図左のような型がついています。
ボールを持った手と同じように握力をかけるため、親指が人差し指と中指の間にくっつくように閉じられています

投手のグラブ、野手のグラブ

一方野手のグラブはボールを捕球するための道具であり、そのため右側のような型がついています。
親指が薬指とくっつくように閉じられ、これによりポケットが広く使えます。

もしかしたら、大谷投手は二刀流で野手の意識も強いため、野手用の型がついたグラブを使って投げておりそれが原因なのかもしれません。


ホップ量は小さくない       


大谷投手の4シームは回転数が少ない。

その上、ボール回転軸にジャイロ成分が多めに混じっているそうです。

では、ホップ量が小さいのか、というと、そうでもありません

(ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行 より引用)


上記のトラッキンデータを見るとホップ量は、40cm強あります。

これはダルビッシュ投手や前田健太投手と同程度で、MLB全体の中でも平均的な値です。

つまり、ホップ量が小さいから打たれるのではなく、平均的で打者が慣れているので当てやすいという方が正確なようです。

しかしそうなると今度は、なぜ回転数、回転軸ともによくないのに平均と同じだけのホップ量を生み出せているのか、というのが不思議で気になってしまいます。




では、また。





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