2021年2月13日土曜日

第55回 2021年MLB球が軽くなり、ホームランの数は減るのか?

 


MLBのホームラン対策

2月10日水曜日のスポーツ新聞で、気になる記事を見つけました。

MLBが今年からボールを軽くするそうです。

"米大リーグ機構が増加傾向にある本塁打数の抑制を目指し、今季から低反発球を導入することを全30球団に通達(中略)。ボールの大きさを変えず、重さを最大2.8グラム軽くすることで飛距離を抑えるという。従来のボールで375フィート(約114メートル)飛んでいた打球は、飛距離が1フィート(約30センチ)~2フィートほど落ちるとのデータが示された。(以下略)" 

(2021年2月10日、中日スポーツ7面より引用)


軽いのに、なぜ飛ばなくなるのか

ボールが軽くなるなら飛距離がむしろアップするのではないか、と思われるかもしれません。

が、物理的に見れば自然なことです。

ボールが受ける空気抵抗(抗力)は断面積に比例します。今回ボールの大きさは変わらないため、抗力の大きさは変わりません。

ボールが受ける加速度は力を重量で割った値になります。

式で書くと明確で分子の抗力はそのままで、分母の重量が小さくなるので、ボールの加速度は大きくなります。


加速度 = 抗力 / 重量 : 空気中を飛ぶボールの減速度


空気中を飛んでいくボールの減速が大きくなるので飛距離が減るのです。



軽くなったボールの軌道計算

では、実際重量が2.8グラム軽くなることで、どれくらい飛距離が落ちるのか軌道シミュレータver3.2で計算してみます。

ボールの飛び方の違いのみを見るために、打球が打ち出される条件は2種類のボールで同じとします。


[計算条件]

従来球の飛距離が記事と同じ375フィート(114.3メートル)になる打球条件として、打球速度150km/h、回転数1900rpm、バックスピン回転とします。



[計算結果]

同じ条件で打ち出された2種類のボールの、軌道計算結果は以下のようになりました。



ほとんど同じ軌道で、差はわずかです。

従来の20年球が飛距離114.3mに対し、2.8g軽い21年球の飛距離は113.7mでした。

確かに飛距離が落ちています。

というわけで、今回の計算ではボールが2.8g軽くなることにより、従来球で114.3m飛んでいた打球の飛距離は67cm低下する、という結果になりました。





記事との誤差


67cmはフィートに換算すると、2.2フィートです。

記事によれば2フィートほどとのことなので、今回の計算結果の方が少し大きくなっています。

原因とし考えられることの一つに、打球速度の違いがあります。
今回は2種類の球で同じ打球条件で計算しましたが、運動量保存則に従えばボールが軽ければ打った瞬間の打球速度は大きくなるはずです。

それが正しいとすれば、もう少し飛距離の低下は小さくなり記事と一致してくると考えられます。

ボールが軽くなることにより、打った瞬間の打球速度は上がるが、減速が大きいので飛距離としては減る、というのが21年球の正体だと考えられます。
低反発球といいながらも、反発係数自体は低下していないのではないかと推測されます。

極端な例として、軽いが空気抵抗の大きいバドミントのシャトルの飛び方を考えるとイメージしやすいかもしれません。



ホームランは減るのか

ところで、飛距離が30-60cm程度減ったからといってそんなにホームランの数が減るのでしょうか。

恐らく減らないと思います。30cmや60cm飛距離が減ったらフェンスを越せなくなるような、ぎりぎりの打球というのはそれほど多くないからです。

とはいえ大きく飛距離を減らしすぎても外野手の守備への影響や、記録への不公平が出てしまうので、あまり大きく変えて欲しくないというのは選手もファンも思うところでしょう。


いずれにしても、お偉いさんの独断で勝手にボールを変えてしまったNPBに比べ、公にするMLBのフェアーさは良いことだと思います。





ではまた。





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