2021年5月15日土曜日

第68回 大谷投手のスライダー軌道を、トラッキングデータから再現する

   



どれも一級品    


大谷投手は4シームの速さと、スプリットの落差が素晴らしいですが、スライダーもまた一級品です。

右打者のアウトコースに投げて空振りを奪うだけでなく、右打席側のボールゾーンから曲げて見逃しストライクをとる右打者に対してのフロントドア、左打者に対してのバックドアとしてもうまく使っています。

その曲り幅は大きくダルビッシュ投手にも匹敵するほどです。




はっきりした球


大谷投手は4シーム、スプリット、スライダーを投げます。

カーブやチェンジアップも投げますが、基本的にはこの3球種でピッチングを組み立てます。


速球は2シームやカットボールを投げずスピードで勝負する、スプリットは自由落下に近いほど大きく落ちる、そしてスライダーは横へ大きく曲がる。

どれもはっきりと異なる球種であり、これは芯を少し外して打ち取るよりも、空振りを奪うことに適しています。

きっと三振をとるのが好きなのでしょうね。




大谷投手4シームの軌道計算


今回は、そんな大きく横に曲がる大谷投手のスライダー投球軌道をトラッキングデータから再現計算してみます。


トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。

これら3つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回は大谷投手のスプリットについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

2018年MLBデビュー戦の平均値です。


     (引用元:Baseball Geeks)


[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。







[計算結果]

計算されたスプリットの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。







スライダーの特徴

大谷投手のスライダーの上下方向軌道は、自由落下とほぼ同じになっています。

これは前回のスプリットと同様です。

横の変化量は38cmと大きいです。

しかし、回転軸は完全なサイドスピンではなく、サイドスピンとジャイロ回転の中間を向いているため、これでも完全なサイドスピンと比べると約7割(cos45°=0.71)ほどの変化量に減っています。

これは大谷投手に限ったことではなく、ほとんどの投手のスライダーの回転軸は同様に、サイドスピンとジャイロ回転の中間を向いています。上投げの場合、完全なサイドスピン回転の球を投げるの難しいためだと考えられます。


レッドソックスの背番号0、オッタビノ投手のスライダーは驚くほど横に大きく曲がります。5月15日のゲームでは、大谷選手も打者として三振を喫していましたが、彼の投球をスローで見るとサイドスピン回転にややトップスピン成分が混じった回転軸をしており、ジャイロ成分が少ないことが分かります。




4シームとの比較

同じ角度でリリースされた4シームと比べると以下のようです。


縦にも横にも大きな差です。

縦の差が66cm、横の差が58cmです。

スライダーというと横に曲がる球というイメージのため、縦の差の方が大きいというのは意外な感じがします。

曲がる、だけではなく、曲がり落ちる、わけです。




3Dプロット

おまけの、3D動画です。

今回計算した投球軌道をCADソフトでプロットし、gif動画にしました。

スピードは実際と同じにしてあります。

投げた瞬間インハイに向かってきていた球が、アウトローのボールゾーンまで曲がり落ちていきます。





同じリリース角度で同時に投げられた4シームと一緒に表示したものが、以下になります。
縦、横の差に加え、スピード差によるホーム到達のタイミングにも差があります。そのため4シームに振り遅れないようなタイミングでスイングすると、泳がされてしまいそうです。









では、また。




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