当たっても死球でない
投球が打者の体に当たれば死球となり出塁が与えられますが、例外がいくつかあります。
投球が地面にワンバウンドしてから当たったとき、避けようとしなかったとき、わざと当たりに行ったとき、ストライクゾーンを通過する球に当たったとき、そして、「空振りをしたとき」です。
NPB歴代最多死球記録保持者は、清原和博さんですが、これは当時の審判員が上記の2つ目と5つ目を適用しなかったことと、本人がそれに味を占めていたことによるところが大です。
バックフットスライダー
一般的に、左打者と右投手の対戦では、ボールが見やすいため、打者が有利だと言われています。
しかし、インコース低目のひざ元から曲がり落ちるスライダーだけは、多くの左打者が苦手とし高い頻度で空振りをします。
時には空振りした球が、軸足を直撃することもある程です。痛い思いをした上にストライクもとられるので打者にとっては踏んだり蹴ったりです。後ろ側の脚や足に当たるため、そのような軌道で投げられる球は、MLBにおいてバックフットスライダーとも呼ばれています。
黄金ルーキーの不調
21年シーズン鳴り物入りで阪神に入団した佐藤輝明選手は、その前評判をさらに上回る活躍でホームランを量産していましたが、後半戦では絶不調に陥り8月後半から59打席ノーヒットと極度の不振に苦しみました。
そんな彼ですが、6月末からもしばらく調子を崩した時期があります。
個人的な見解ですが、そのきっかけとなったのが、このひざ元のバックフットスライダーだったのではないかと思っています。
6月23日の中日戦のことです。
山本投手のインハイへのボール気味のストレートでハーフスイングをとられた次の一球は、再びインコースの真ん中の高さへのストレートでした。打球は一塁側ファールゾーンへのライナーでしたが、詰まった当たりでした。
そしてその次の球。三度インコースに向かってきた球に対し、ムキになったのか、あるいは振り遅れるのを恐れたのか、明らかに早いタイミングで右肩を開き、力強いスイングでもって迎え撃とうとしました。またインコースにストレートが来た、と思ったのでしょう。
しかし運悪く、その球はスライダーで、空振り三振した挙句、投球が左脚を直撃しました。完全なる「バックフットスライダー」です。佐藤選手はとても苦しそうにしていました。
その後彼は調子を崩し、スタメンを外されたり、カープ戦で1試合5三振したりしました。ヤクルト戦で2塁ランナーの近本選手が引き起こした「サイン盗み疑惑」も、打席の佐藤選手へキャッチャーミットがインコースに構えられていることを伝えるものでした。
低目だろうが、アウトコースだろうが構わずすくい上げセンター方向にホームランにしてしまう佐藤選手に対しては、もうインコースを攻めるしかないと言われていましたが、この時の中日バッテリーは実にうまく攻めたと思います。
インコースのミートポイントは前
インコースのストレートは速い上に、ミートポイントが前よりであるため、他の球よりも早いタイミングで振り始めなければ間に合いません。そのため、見極めがアバウトになりがちです。
そこへ投げた瞬間の軌道が似た球がこれば、見誤る確率は高くなります。
そこで今回は、左打者のインコース、ストライクゾーンのストレートと、ストライクゾーンに来るように見えて曲がって脚に当たるようなバックフットスライダー、両者の投げた瞬間の軌道がどれくらい似ているのかを、軌道シミュレータver.3.2で軌道計算し比較してみます。
バックフットスライダーと、インコースストレートの軌道計算
左打者の軸足に当たるスライダーと、それと同じリリース角度で投げられたストレートの軌道を計算します。
右投手対左打者とします。
[計算条件]
軌道シミュレータver.3.2へのインプットは以下のようです。プロ投手の平均的な球速と回転を想定しています。
[計算結果]
軸足に当たるバックフットスライダーと、それと同じリリース角度で投げられたストレートの軌道計算結果は、以下のようになりました。グラフ上の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。
1/3までほぼ同じ
上記の計算結果を見ると、ピッチャープレートから6メートル過ぎの位置まで、両者の軌道はほぼ重なっています。これはプレートとホームベース間距離の1/3に相当します。
時間でいうとリリースから0.1秒後まで、両者の軌道差はとても小さく、ほぼ重なっています。
どれくらいの時間までを打者が「投げた瞬間」と感じるかは不明です。
ストレートがリリースから打者のところへ届くまでの時間はわずか0.43秒ほどのため、0.1秒までボールを見て判断してから行動すると仮定すると、残りの0.33秒で体を回転しバットを体の前まで持ってくる必要があります。決して猶予のある時間ではありません。
ミートポイントが前であるインコースの球に、振り遅れず、詰まらされず、強く打ち返そうとすれば、0.1秒未満までの軌道を見て急いで振り始めてしまうことは十分考えられます。
CADソフトで3Dプロット
打者側からどのように見えるのかを表すために、上記で計算した投球軌道をCADソフトで3Dプロットしたものが以下です。
投手と打者を模した人体モデルおよび、マウンド、ホームベース、ストライクゾーンを表す青枠も追加してあります。投球軌道中の黒いものがホームベース前端上(x=18.010m)におけるボールの通過点です。打者は投球軌道が隠れないよう、半透明にしてあります。
①インコース、ストライクゾーンのストレート
このような球でインコースに突っ込まれて、詰まらされ、その次の球が、②投げた瞬間の軌道(リリースから0.1秒後まで)
またこんな球が来れば、「もう、ボール球には手を出さない」と警戒してバットを止めてしまいますが、①の軌道で飛んできて、見逃し三振になってしまいます。
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