曲がり落ちないスライダー
牧田和久投手が最も得意としている変化球がスライダーです。アンダーハンド投手特有の低いリリースポイントから上に向かって投げられたスライダーは、曲がり落ちることなく、浮き上がりながら真横へ曲がっていくような軌道です。
今回は牧田投手のスライダー軌道の再現計算を行います。
スライダーの軌道再現計算
メジャーリーグ、パドレス時代の2018年に計測されたトラッキングデータを使用します。球速、回転数から変化量がデータに合うよう回転軸を調整します。
トラッキングデータの変化量はボールの回転で生じるマグナス力による変化量のみで、重力による落下量は含まれていません。同じ球速の自由落下に対する変化量です。
軌道シミュレータver.3.2へのインプット値、および計算結果のグラフプロットは以下のようです。
[インプット値]
ストレートよりもホップするスライダー
縦の変化量は28cmです。前回計算した牧田投手のストレートは、縦の変化量が16cmでした。スライダーの方がストレートよりもボール1個分ほど大きく上へ変化します。これは自由落下軌道に対する縦の変化量であり、バックスピン回転の揚力によりホップする量です。
これもアンダーハンド投手特有の球です。オーバーハンドの投手では、スライダーもカットボールも縦の変化量はストレートよりも小さくなります。ストレートを基準として曲がり落ちる軌道です。
オーバーハンド投手と多く対戦している打者は、「スライド方向に変化する球はホップしてこない」という経験則が身に着いています。そのため牧田投手のスライダーは浮き上がってくるような異質な軌道に感じられるはずです。いわゆる、ライジングスライダーです。
NPB復帰後の2020年シーズンでは、被打率.158と素晴らしい数字を残しています。これは松井裕樹投手のスライダー被打率(.233)をも上回っています。投球割合もストレートに次ぐ25%と多投しており、一番の武器となっている変化球です。
ストレート軌道と見比べる(2D)
前回計算したストレート(4シーム)の軌道と重ねると、以下のようです。両者は同じリリース角度で投げられています。
スライダー単体での横の変化量は18cmとそれほど大きくありません。
しかしストレートが反対のシュート方向に30cmも変化しているため、両者の差でみると49cmとかなり大きくなります。これはホームベースの横幅よりも大きな差ですから、インコースぎりぎりのストレートと同じリリース角度で投げられた球が、アウトコースのボールゾーンまで曲がって逃げていきます。
ストレート軌道と見比べる(3D)
横方向へ大きくシュートするストレートと沈まずに真横に曲がるスライダーのコンビネーションは、コントロールよくインコース、アウトコースに投げ分けられればとても効果的です。
ではまた。
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