アンダーハンド
アンダーハンド投手の変則的かつ流れるような滑らかな投球フォームは芸術性があり、見ていて楽しいものです。
残念ながら近年は数が減り、絶滅危惧種と言われています。野生動物ならかわいそうだからと狩りの能力が低くても保護してもらえますが、野球選手は自力で打者を打ち取り生き残らなければなりません。
日本を代表するアンダーハンド投手である牧田和久投手は今、プロの世界で生き残れるかどうかの瀬戸際にいます。
メジャーリーグへの挑戦が決まったときには侍として出場した国際大会での良好な成績から、メジャーリーグの外国人打者たちに対してもその変則的なフォームと独特の投球軌道は通用するだろうと期待されていました。しかし、思うような結果が残せず、わずか2年で日本に出戻りしました。
その際古巣西武ではなく同じパリーグの敵チームである楽天を選んだことが不興を買ったのか、昨シーズン2軍とはいえあれほどの成績を残したにもかかわらずオフに獲得に動くNPB球団はありませんでした。今シーズンは独立リーグに所属しNPB復帰を目指すことになりました。
牧田和久投手のストレート
下のgifは、牧田和久投手のストレートです。
トラッキングデータを基に、軌道計算で再現しました。(投手のCADはオーバーハンドのままです。)
アンダーハンド投手特有の低いリリースポイントから上に向かって投げ出されるストレート、130km/hの球速以上に速く見えます。
軌道再現計算
メジャーリーグ、パドレスに所属していた2018年に計測されたトラッキングデータを使用しました。球速、回転数から変化量がデータに合うよう回転軸を調整しています。
トラッキングデータの変化量はボールの回転で生じるマグナス力による変化量のみで、重力による落下量は含まれていません。同じ球速の自由落下に対する変化量です。
軌道シミュレータver.3.2へのインプット値、および計算結果のグラフプロットは以下のようです。
[インプット値]
[計算結果]
少ないホップ量
縦の変化量は16cmです。
メジャーリーグやNPBのオーバーハンド投手の場合、ホップ量は平均的で40cm程です。牧田投手のストレートのホップ量は、平均的なオーバーハンド投手の半分以下です。
これは牧田投手に限らず、アンダーハンド投手に共通することです。
アンダーハンドの投げ方でバックスピン回転を与えようとすると、ジャイロ回転が多く混じってしまいます。オーバーハンドの投手がスライド回転を与えようとするとジャイロ回転が混じるのと同じです。これにより回転数のわりにホップ量が少なくなっています。
一方で横の変化量は30cmと大きくなっています。オーバースロー投手の1.5倍ほどです。ホップ量が少なく、シュート量が大きい、オーバーハンド投手のシンカーに近い変化量です。
威力半減
アンダーハンド投手のストレートは、ストライクゾーンよりも高い位置からリリースするオーバーハンド投手では投げることのできない、下から上への軌道が最大の武器です。
しかしながら、上記のように回転によるホップ量ではオーバーハンドに劣ります。加えて、オーバーハンドに比べ球速が遅いため、重力を受ける時間も長くなり、その分落下量が増えます。
結果、下から上への軌道という武器は、回転軸の悪さと、球速の遅さの2つの要因により威力が半減してしまいます。
これは牧田投手個人の技術的な問題ではなく、アンダーハンドという投法の問題なので改善は容易ではありません。
打っているのは上から下の球
上のx-zプロットを見ると、上下方向の軌道が明確です。
上向き4度の角度で投げられた球はリリース直後こそ下から上に向かって飛んでいます。しかし、x=12m過ぎ、ホームベースの手前6メートルあたりで頂点を迎えた後、打者の手元では上から下への落下軌道に転じています。
打者の感覚としては下から浮き上がってくるように見える球も、実際にバットで打っているのは上から下に向かって飛んでいる球です。
打者のバットはインパクトのシーンにおいて下から上へ動いていますから、もし投球が下から上に向かって飛んでいれば両者の軌道は点でしか交わらず、少しのタイミングのずれでも空振りをとりやすくなります。
しかし実際の球は上から下への軌道です。目では下から上に向かって飛んで来るように見えても、実際にはバットの軌道と重なっているため、振ればそれなりに当たってしまいます。
これが、アンダーハンド投手が通用しづらい理由であり、それゆえ数が少ない理由の一つだと考えられます。
オーバーハンドと見比べる
オーバーハンドの平均的なストレート(145km/h, 2000rpm)と見比べると、以下のようです。
15km/hも遅い割には速く見えます。
ではまた。
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