2022年4月2日土曜日

第113回 牧田和久投手のシンカー、再現計算

  


シンカー

アンダーハンド投手はシンカーの投球軌道もまた独特です。オーバーハンド投手のそれとは大きく異なる軌道で打者を幻惑します。

低いリリースポイントから上に向かって上がってきたからと思ったら、一転、鋭く下へ曲がり落ちていきます。ストレートの浮き上がってくるような軌道イメージしているとボールのはるか上を空振りしてしまいます。

昭和のレジェンドサブマリン山田久志投手や潮崎投手の決め球としても有名で、牧田和久投手ももちろん持ち球に加えています。

今回は牧田和久投手のシンカー軌道を、トラッキングデータから再現計算します。



シンカーの軌道再現計算

メジャーリーグ、パドレス時代の2018年に計測されたトラッキングデータを使用します。球速、回転数から変化量がデータに合うよう回転軸を調整します。

トラッキングデータの変化量はボールの回転で生じるマグナス力による変化量のみで、重力による落下量は含まれていません。同じ球速の自由落下に対する変化量です。

軌道シミュレータver.3.2へのインプット値、および計算結果のグラフプロットは以下のようです。

[インプット値]



[計算結果]

牧田和久投手シンカー軌道



シュート&ドロップ

縦の変化量は下へ13cmです。自由落下に比べてボール2個分ほど下へ変化します。

横方向の変化量は37cmで大きくシュートしています。

アンダーハンド投手の投げるシンカーの最大の特徴は、シュート方向に曲がる球が自由落下以上に下へ曲がるという点です。

回転軸は上図のように、シュート方向のサイドスピン回転と、トップスピン回転が混じっています。オーバーハンド投手ではこの回転軸の球を投げることは絶対にできません。薬指と小指が邪魔になるせいです。

例えば、ロッテ益田投手はシュートしながら鋭く落ちるシンカーを投げますが、回転軸をスローで見るとほぼサイドスピン回転をしています。トップスピン回転は入っておらず、縦の軌道は自由落下に留まります。

サイドハンド投手だったヤクルト高津監督の現役時代のスロー映像を見ると、リリース時の回内を利用してボールを上側をこするようにしてトップスピン回転を与えています。



スカイフォークは実在しない

漫画ドカベンに登場するアンダーハンドの里中智投手は、スカイフォークという魔球を投げます。

しかし実際にアンダーハンド投手でフォークボールを投げる投手はいません。

そもそもフォークボールは回転数を減らすことで、強いバックスピン回転でホップするストレートと比べて、相対的に下へ変化する球です。単体で見れば最高でも自由落下までの落差になります。

オーバーハンド投手のストレートは自由落下に対して40cmほどホップしているため、自由落下するフォークは落差40cmになります。(さらにこれに球速差による重力の落差が加わります。)

一方で牧田投手のストレートのホップ量は16cmです。仮に自由落下するフォークを投げられたとしても、その落差は16cmにしかなりません。これでは大した威力にならないため、落ちる球として縦の変化を付けるにはトップスピン回転を与え、自由落下以上に下へ曲げることが必要になる、と考えられます。


縦の変化を付けるためにも、またオーバーハンド投手が投げられずゆえに打者が見慣れていない回転の球を投げるためにも、アンダーハンド投手はシンカーをぜひ習得すべきです。




ストレートと見比べてみると(3D)

以前計算したストレートと交互に表示した3Dプロットgifで見比べてみると、以下のようです。(投手のCADはオーバーハンドのままです。)

シュート方向の変化量が同じくらいなので、真下に向かって変化していくような軌道です。


このボールゾーンへ変化していくシンカーを振らないようにすることと、インコースのストレートに振り遅れてつまらないようにすることを両立するのはかなりの困難です。






ではまた。




0 件のコメント:

コメントを投稿