全ての投球は下向きに飛んで来る
打者のバットはボールと当たるインパクトの瞬間、水平よりも上向きに動いています。
投手のレベルや球種によらず全ての投球は、ホームベース手前、打者の手元では水平よりも下向きに飛んでいます。そのため、バットを少し上向きにスイングしたほうが両者の軌道が重なりバットに当たりやすくなります。
では、どのくらいの上向き角度でスイングをするのが最もバットに当たりやすいのでしょうか?
今回は軌道シミュレータで打者の手元における投球軌道を計算し、最適なスイング角度を求めました。
高めの真っすぐは打てるのに、低めのカーブが全然当たらないと悩んでいる人はぜひ参考にして欲しいと思います。
水平に近い球、下向きの球
投球により水平で近い角度のものもあれば、より下向き角度で飛んでいるものもあります。そのため最も水平に近い投球と、最も下向きにの投球の、両極端の軌道を計算します。
水平に近くなる条件としては、①球速が速い、②バックスピン回転がかかっている、③リリースポイントが低い、④高めのコース、が挙げられます。
球速が速いと重力を受ける時間が短くなり、バックスピン回転がかかっていると上向き揚力が作用するので、軌道のお辞儀が抑えられます。またより低い位置からより高い位置に向かって投げるほど、投げ出すときの角度が水平に近くなります。
高めの速いストレートは、打者の手元を最も水平に近い角度で飛んでいきます。
反対に球速が遅く、トップスピン回転で、高いリリースポイントから、低めのコースに投げられた球は、下向きの角度になります。
低めの緩いカーブは、打者の手元を最も下向きの角度で飛んでいきます。
ストレート、打者の手元の軌道計算
では、まず最も水平に近いストレート(4シーム)の軌道を計算します。上記①~④の条件を、プロ野球の中であり得る範囲で、水平に近くなる場合として以下を想定します。
①球速 155km/h、②回転数2300rpm, ③リリースポイント 地上1.7メートル、④高めいっぱいのゾーン 地上1.2メートル
[インプット値]
軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。参考に低めの球(地上0.5メートル)も併せて計算します。
[計算結果]
最も水平に近い、高めのストレートの投球軌道計算結果は以下のようになりました。
グラフ上の点は0.02秒ごとの、一番右側のみホームベース前端(x=18.01)における、ボールの位置を表します。
高めのストレートは打者の手元で、水平から下向き3.5°の角度で飛んでいます。
角度はx=18.01におけるx,z方向の速度から、tan-1(vz/vx)=tan-1((dz/dt)/(dx/dt))で計算しています。
高めと低めの違い
一方で、同じ球を低めに投げた場合は、下向き6.0°で飛んでいます。高め、低めのコースの違いにより2.5度の差があります。そのため、高めの球は水平に近いスイング角度のほうが当たりやすく、低めの球は少しアッパースイングのほう当たりやすいということになります。
カーブ、打者の手元の軌道計算
次は、最も下向き角度になるカーブの軌道を計算します。
上記①~④の条件を、プロ野球の中であり得る範囲でより下向き角度になる場合、ただし100キロ台のスローカーブやイーファスピッチは投球割合が少ないため除外、として以下を想定します。
①球速 120km/h、②回転数2600rpm, ③リリースポイント 地上1.9メートル、④低めいっぱいのゾーン 地上0.5メートル
[インプット値]
軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。参考に高めの球(地上1.2メートル)も併せて計算します。
[計算結果]
最も下向き角度の、低めカーブの投球軌道計算結果は以下のようになりました。
グラフ上の点は0.02秒ごとの、一番右側のみホームベース前端(x=18.01)における、ボールの位置を表しています。
低めのカーブは打者の手元で、水平から下向き11.2°の角度で飛んでいます。
高めのストレート(下向き3.5°)と比べると、7.7°も違いがあります。
そのため、レベルスイングの打者は高めのストレートに合いやすく、アッパースイングの打者は低めの変化球に強いという傾向が生まれます。
アレックス・ゲレーロ
アレックス・ゲレーロ(2017年 中日、18-19年 巨人)は、典型的なアッパースイング打者です。
低めの変化球なら、ボール気味の球でも芸術的なアッパースイングですくい上げてことごとくホームランにしてしまいます。17年には悪名高きナゴヤドームを本拠地にしながら35HRを打ち、本塁打王を獲得しました。
ナゴドで35本なら、東京ドームでは60本ぐらい打つだろうと考えた巨人軍の背広組はドラゴンズブルーの血が流れる彼のほほを8億円の札束でひっぱたき、東京へ連れて行きました。
中日球団はマネーゲームには応じずあっさり彼を手放し、中日ファンはそれを悔しがりませんでした。シーズン前半には6試合連続本塁打を含む量産ペースも、シーズン後半は高めの速球で攻められるとペースが落ち、来シーズン以降活躍しないだろうと予想していたためです。
メジャーでもフライボール革命によりアッパースイングの打者が増えたことで、2シームなどの動く速球ばかり投げていた投手たちは、高めのホップする4シームを見直すようになりました。
プロ野球が女子ソフトに勝てない理由
高めのストレートは速さで振り遅れさせるだけでなく、水平に近い投球角度によりアッパースイングで上向きに動くバットと軌道をずらす効果があります。
その効果がさらに増長されたのがソフトボールです。
野球よりもバッテリー間が狭く下から投げるソフトボールでは、高めのライズボールは打者の手元でも水平よりも上向きに飛んでいます。そのため、水平よりも下向きに飛んでくる球しか想定していない野球選手のバットは軌道が合わず空を切ります。
近距離から体感速度160キロといわれるスピードに加え、この軌道のずれが加わるため、プロ野球のトップ選手でさえ空振りを繰り返してしまうのです。
高めの変化球が打たれる理由
さて、今回計算された打者の手元における投球角度は以下のようです。
高め | 低め | |
---|---|---|
ストレート | 3.5° | 6.0° |
カーブ | 8.6° | 11.2° |
これと同じスイング角度であればボールと軌道が重なり、当たる確率が高くなります。
高めのストレート(3.5°)と低めのカーブ(11.2°)では7.7°の差があり、これがアッパースイングの打者にとって合う合わないを生み出していることは上述の通りです。
反対に低めのストレート(6.0°)と高めのカーブ(8.6°)では、2.5°しか差がないため、カーブが高めに浮くとスイング軌道があって打たれやすくなってしまいます。
では、また。
(2022/5/20 計算エラー修正)
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