2022年5月21日土曜日

第117回 ロボ審判はワンバウンドをストライクとコールする




ロボ審判、導入迫る

人間のアンパイアに代わり投球のストライク/ボールを判定する「自動ボールストライクシステム(ABS)」、通称「ロボ審判」の導入が間近に迫っています。

賛否ありますがトラックマンとリプレー検証が導入済みの今、ロボ審判導入は必然的な流れでしょう。

アメリカではすでに、メジャーリーグへの導入に向け、2019年から独立リーグで21年から3Aで、試験的に導入されています。


ワンバウンドなのにストライク?

体験した選手の反応は投手からは好評、打者からはいまいちと多少のとまどいはあるようです。

なかでも面白いのが、ロボ審判は地面にワンバウンドした球でも、ときにストライクの判定をすることがある、ということです。


人間もストライクだと思っているが

これはロボ審判の測定精度が悪い、という話ではありません。

人間の審判もストライクだとわかっていて、あえて"機微"としてボールのコールをしているそうです。

以下、新聞記事(*1)の引用です。

マイナーリーグで審判員を務め、年間140試合に出場する(中略)小石沢さんは「人間にはストライクとコールしづらい投球も、機械は宣告する」と違いを指摘する。

例えば、縦に大きく落ちるカーブ。ストライクゾーンをかすめても、ワンバウンドをすれば大抵の審判はボールと判断する。ルール上はストライクでも、地面に付く球まで右手を上げればトラブルになりかねない。「そういう判定を続けると、正しかったとしても選手の信頼を失う」


(*1)中日新聞 2022年5月2日版 16面


選手やファンはワンバウンドしたような球は当然ボール球だと思いこんでいますが、必ずしもそうではないと、プロの審判員もロボ審判の弾道測定装置も認めているわけです。

にわかには信じがたいことです。

実際、ワンバウンドした球がストライクゾーンを通過しているということがあり得るのでしょうか?

そこで今回は低めいっぱいストライクゾーンを通過した縦カーブが、キャッチャーの捕球する前にワンバウンドすることがありえるのか軌道計算して、確かめてみます。


ワンバウンドするカーブの軌道計算

最も手前でワンバウンドするように、最も下向きの軌道となる条件として、球速が100キロと遅いトップスピン回転をしたスローカーブの軌道を計算します。

比較対象に通常の125キロで斜め回転のカーブも併せて計算します。

ストライクゾーンの低めいっぱいを地上0.5メートルと想定し、ホームベース前端を通過時にこの高さ(x=18.01m,z=0.5m)をボールが通過するようリリース角度を調整します。


[インプット値]

軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。






[計算結果]

低めいっぱいのストライクゾーンを通過する、トップスピン回転のスローカーブの軌道計算結果は以下のようです。

グラフ上の点は0.02秒ごとの、一番右端のみ地面にバウンドしたとき(z=0)の、ボール位置を表します。

ロボ審判、ワンバウンドカーブの軌道計算


スローカーブはx=19.8mで、普通のカーブはx=20.5mで地面にバウンドしました。


バッターボックス後方60センチ

スローカーブはバッターボックス後側ラインから、後方60センチあたりでバウンドします。

通常、キャッチャーはバッタボックス後側ラインのあたりで捕球をしています。そのためこの投球は、キャッチャーが通常の位置にいれば十分ノーバウンドで捕球可能です。

したがって、ワンバウンド補球した投球がストライクゾーンを通過していたということは、100キロの遅さの、トップスピン回転のスローカーブで、ストライクゾーンの低めいっぱいで、捕手が通常よりも後ろに下がっていてなおかつ腕を伸ばして捕りに行かなかったという、限られた条件がよほど重なったときだけ起こりえます。


普通のカーブはそれよりもさらに70センチほど後ろ、ホームベース後端から2メートル後ろでバウンドするため、ワンバウンド補球した球がストライクゾーンを通過している可能性はありません。

また、今回の計算条件以外にも、強い向かい風の時には曲がりが大きくなるため発生しやすくなります。

また、極端な山なり軌道であるイーファスピッチはキャッチャーが通常の位置でもストライクの球がワンバウンド補球となります。逆に捕手がノーバウンドでとれるような球は、全て高めのボール球です。



一回転したバット

さて、ロボ審判の導入に私は賛成派です。まずなによりも、判定が正確で公正になります。

さらに上記のことから、捕手の安全のためにもメリットがあることが分かります。


低めの緩いカーブを強振して空振りしたバッター、とりわけ外国人のパワーヒッター、はよく後側の手を離し大きなフォロースルーをとります。

その結果、一回転したバットがキャッチャーに当たってしまうことがあります。

元中日の杉山捕手は当時ヤクルトのバレンティン選手に後頭部を強打され、大けがをしました。バッティングも良い選手で、あれさえなければ谷繁の後継者として正捕手にもなれていただろうだけに、ほんとうに残念です。

そのような悲劇を避けるため、低めの緩い球の時にはキャッチャーは打者にばれない程度に少し後ろに下がるべきですが、そうするとワンバウンド捕球になり人間の審判からボール判定を受けてしまうリスクがあります。

そのためノーバウンドで取れる位置までは前に出て、襲い掛かるバットを命がけで避けながら補球をしなければなりません。

今後ロボ審判が導入されれば、安全な位置まで後ろに下がって捕球できるようになります。





では、また。





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