2024年7月21日日曜日

第162回 Excelでソフトボール場を作図する

 

幾何学的

私は野球が好きですが、女子ソフトボールも好きです。
3年前の東京五輪でのダブル金メダル獲得は最高でした。
今回のパリ五輪は野球・ソフトボールがないので寂しさを感じています。

さて今回はソフトボールのグラウンドを、Excelを使って描いてみたいと思います。女子一般国際ルールです。
ルールにより各寸法が定められたグラウンドは幾何学的で、整った形をしています。
そのため、適当な座標系を指定し、簡単な寸法計算をするだけで作図することができます。



ホームベース

まず最初は、ホームベースです。これは野球と共通です。

野球・ソフトをやる老若男女みんなが同じホームベースを使ってプレーします。

家のような形をしているため"ホーム"ベースと呼ばれますが、正五角形ではなく、一辺が43.2cmの正方形の角2つを辺の中点で結ぶラインで切り落とした形をしています。

ベース後端(捕手側)の点を原点にとり、センターラインをy軸、一塁方向を+x軸にとります。

Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。単位はメートルです。

ホームベースの作図



バッターボックス、ファールライン

次は左右のバッターボックスとライト、レフトのファールラインです。

バッターボックスは縦2.13メートル、横0.91メートルの長方形です。野球の縦1.824メートル、横1.219メートルに比べ縦長でピッチャー側に長くなっています。

ファールラインはホームベース後端(上図の点0)からセンターラインに対しそれぞれ45度の方向に67.06メートル先まで伸ばされた直線(線分)です。45度のため、√2で割るだけでの伸ばした先の端点、すなわち両翼ポールの点のx,y座標を求めることができます(cos45°=sin45°=1/√2)。


Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

バッターボックス、ファールラインの作図

野球のボックスとも重ねてみました。赤線がソフトで、青が野球です。

上記のバッターボックス寸法の違いにより、ファールラインの始点が異なります。野球ではボックス前側からファールラインが生えていますが、ソフトボールは外側から生えています。

野球に慣れている人にとってはちょっとした違和感ですが、ぱっと見で野球場かソフトボール場かを見分けるよい目印にもなります。

またこうして改めてみると、野球のボックスは無駄に横幅が広い気がします。巨人坂本選手はホームベースから離れて立ちますが、それでもせいぜい30cm程度ですから、ソフトボールの幅でも十分納まります。




123塁ベース、ピッチャープレート

次は1,2,3塁の各ベースと、ピッチャープレートです。

ソフトボールの塁間距離は18.29メートルです。

野球の27.431メートルよりも10メートル弱短くなっています。

野球部員が体育の授業でソフトをやったとき、打球を見ながら走っていたら、いつの間にかベースを通り過ぎてしまってみんなに笑われるのは、あるあるです。

2,3塁ベースのサイズは野球と同じで、一辺38.1cmの正方形です。(MLBは23年から大きくなりました。)

1塁ベースのみソフトボール特有で2つ分のサイズ、白橙2色のツートンカラーがおしゃれな"ダブルベース"です。

ダブルベースはいいものです。安全が確保されてるからこそ全力プレーができます。

一塁手の足を踏んでしまう恐れがないので、セーフになることだけを考えて一目散にベースを駆け抜けられます。

ボクシング選手だって、もし審判が止めてくれなかったら怖くて相手を殴り続けることはできません。


ピッチャープレートはホームベース後端から13.11メートルの位置ある、縦15.2cm、横60.9cmの長方形です。

男女や年齢によって少しずつバッテリー間の距離が異なります。男子一般14.02m、中学女子12.19m、小学生10.67mなどとなっています。

野球のような盛り土マウンドが必要ないため、競技者の体力に応じて柔軟に距離を変えられるのはソフトボールの良いところです。


Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

これで、直線で描ける部分は完成です。

ベース、ピッチャープレートの作図



ピッチャーズサークル、グラスライン

さて次は、ピッチャーマウンドとグラスラインです。これは円と円弧で描かれます。

ピッチャーズサークルはプレート前側中央を中心点とした半径2.44メートルの円です。野球のように盛り土はなく平らです。前方への偏りもありません。

ソフトボールのランナーは野球と違い、リードも盗塁も禁止されています。

より具体的にはピッチャーがボールを持ってこのピッチャーズサークル内に入ると、投手の手から球が離れるまで、ランナーはベースから離れることができなくなります。

グラスラインは内野想定線、あるいはスキンドインフィールドとも呼ばれる、内野の土と芝生の境目を表すラインです。ピッチャープレート後端中央を中心点とした、半径18.29メートルの円弧です。


点を結んで正確な円や円弧を描こうとすると、無数の点が必要となります。実用的な方法として、等角度おきに点を配置した正多角形で近似します。正多角形で近似する方法は円周率の値を求める際などにも利用されます。

ここではピッチャーズサークルは15度おきにしました。360/15=24なので、正24角形となります。

グラスラインは半径が大きいので、プロットした時線がガタガタにならないようもう少し細かくして10度おきにします。

cosとsinでxとyの座標値を計算していくのですが、Excel数式では三角関数を計算する際、角度をなじみのある度(deg)から、ラジアン(rad)に必要があることに注意です。セルへの数式入力の仕方は"RADIANS"を使って、例えば"=2.44*COS(RADIANS(0))"とします(下図のx33の場合)。

Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

いい感じになってきました。

ピッチャーズサークル、グラスラインの作図



外野フェンス

最後は、外野フェンスです。

ホームから外野フェンスまでの距離は国際ルールでは67.06メートル以上と定められています。

ホーム後端を中心点とした円弧のため、どの方向でも同じ距離になります。

野球のように無理に引っ張らなくても、センター返しでホームランを狙うことができます。

45度から135度まで5度おきでExcelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

外野フェンスの作図

完成です!

座標計算した94個の点たちを結ぶことで、ソフトボール場を描くことができました。




野球と重ねると

おまけで、野球場と重ねてみます。

野球場の外野フェンスは以前計算した、プロ野球本拠地の中でも広いと言われるバンテリンドームナゴヤのものを使います。

ちなみにバンテリンドームの外野フェンスも幾何学的に整った円弧形状ですが、その中心点はホームベース上ではなくインフィールドラインのあたりにあります。

それにより円弧でありながら両翼100m、センター122mというプロ野球の標準的なサイズを満たしており、また同時にそのせいで、他のどの球場よりもホームランになりにくい深い深い左中間・右中間が形成されています。

ソフトボール場と重ねると下図のようです。

野球場&ソフトボール場

外野フェンスの距離感がまるで違います。

ソフトボールの方がフェンスが近いのは、野球よりも飛距離がでないからですが、それは選手の能力の問題ではなく道具の差によるものです。


*****

2028年のロス五輪が今からもう、楽しみです。



では、また。



    参考Webサイト
    (*1)公益財団法人日本ソフトボール協会
        http://www.softball.or.jp/info_knowledge/kiso/tisiki/yougu.html
    (*2)コウフ・フィールド株式会社
        https://catalog.kofu-field.com/book/#target/page_no=69



2024年7月17日水曜日

第161回 プロ投手のストレートは小学生投手、高校生投手とどれくらい違うのか?

 


プロとアマチュアの差

プロ野球投手とアマチュア投手の差は何でしょうか?

コントロール、変化球のキレ、球種の豊富さ、ボールの出どころの見づらさ、体力、メンタル、などなど。

いろいろ要素はありますが、やはりストレートの威力の違いが一番ではないでしょうか。


ストレートに差し込まれまいとするから変化球に泳いでしまうし、ストレートに威力があるから少々甘いコースでもとらえきれなくなります。

腕の振りが速いからこそ、変化球でも強い回転をかけられます。手先の器用な小学生がプロと同じ回転軸の球を投げられたとしても、プロのように鋭い変化をさせることはできません。

大きくホップするストレートがあるから、回転数を落として少し沈ませるだけで簡単に空振りをします。山なりのストレートを投げる小学生が自由落下に近い落ち方をするフォークを投げても、お化けのように打者の視界から消えることはありません。


今回はプロ投手の投げているストレートが、小学生投手や普通の高校生投手とどれくらい違うか軌道計算して比べてみます。


計算条件

球速は小学生投手、普通の高校生投手、プロ投手でそれぞれ95km/h,120km/h145km/h,とします。

回転数は球速に応じた値とします。回転軸は下図の様で、高レベルほどシュート回転、ジャイロ回転のより少ない回転軸とします。

リリースポイントは高レベルほど体のサイズが大きいと想定し、小学生はバッテリー間距離の違いも考慮します。バッテリー間距離は一般が18.44mで、小学生は16.00mなので、2.44mm手前から投げることになります。

[計算条件]


   

[計算結果]

計算結果は以下のようです。

グラフ上の点はリリースから0.02秒おきのボールの位置を表します。

小学生、高校生、プロのストレート

お辞儀

高レベルほど上下軌道のお辞儀が少なくなり、より直線的です。

三者ともストライクゾーンの同じ高さに投げる条件で計算していますが、投げ出す角度は高レベルほどより下向きになります。

小学生は水平よりも上向きに投げ出し、途中で落ちてくる山なりの軌道です。

高校生はほぼ水平に投げ出されしばらく真っすぐ飛んでいきますが、ホーム手前で少しお辞儀します。

プロは水平よりも下に向かって投げ出され、そのまま大きく垂れることなくホームまで飛んでいきます。

レベルが上がるほどより下に向かって投げ出するため、マウンドの傾斜が必要になってきます。


到達時間

リリースからホームベース(x=18.01m)到達までにかかる時間は、小学生で0.60秒です。高校生は0.52秒で、プロは0.43秒です。

小学生は一般よりも2.44メートル手前(=18.44-16.00)から投げますが、それでも球速の速い高校生の方が短時間でホームまで到達します。

今回の条件では高校生の球は小学生より0.08秒(=0.06-0.52)早く到達します。一方、プロの球は高校生より0.09秒(=0.52-0.43)早く到達するので、プロ投手と普通の高校生投手のストレートの差は、高校生と小学生ほどの大きな差があるということになります。


3Dプロット

上記の計算結果を3Dプロットしました。

捕手側からの視点

小、高、プロストレートgif捕手視点


投手側二塁よりからの視点

小、高、プロストレートgif二塁手視点

動画にすると勢いの違いがよく分かります。

高校生の投げる120km/hのストレートでも実際に打席に立つと一般人にはとても手に負えない速さなのですが、プロの145km/hを見た後ではチェンジアップのようです。



ではまた。