盗塁のセオリー
盗塁するランナーは成功率を高めるために、相手投手が変化球を投げてくるタイミングを狙って走ります。
そのため、以下のようなセオリーがあります。
・ワンボールツーストライクのとき、バッテリーは変化球で三振をとりに来る確率が高いため、盗塁をするチャンスである。
球速の遅い変化球の方が投手がリリースしてからキャッチャーが捕球するまでの時間が長くなります。
その分だけ二塁ベースへ送球が届くのが遅れるため、ランナーが有利、バッテリーは不利になります。
そこで今回は、相手投手が変化球を投げた時に盗塁すると、ストレートの時に比べ、ランナーはどのくらい得するのか計算してみました。
変化球の軌道計算
同じコースに投げられた、プロの標準的なストレート(4シーム)とカーブを計算対象とします。
カーブは、ナックルボールやイーファスピッチのような特殊球を除けば、最も球速が遅い球種です。
キャッチャーの捕球位置はホームベースの後方1m程度と仮定し、プレートから19.5m地点にボールが到達するまでの時間を軌道シミュレーターver.3.2により計算します。
カーブ
球速 v0=120[km/h]、リリース角度 θ=3.1度(上向き)
リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
ボール回転軸角度 θs=60度、Φs=45度
回転数 N=2700rpm(SP=0.31) : 抗力係数 CD=0.43、揚力係数CL=0.27
4シーム
球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-3度(下向き)
ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
回転数 N=2200rpm(SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20
球速 v0=120[km/h]、リリース角度 θ=3.1度(上向き)
リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
ボール回転軸角度 θs=60度、Φs=45度
回転数 N=2700rpm(SP=0.31) : 抗力係数 CD=0.43、揚力係数CL=0.27
4シーム
球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-3度(下向き)
ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
回転数 N=2200rpm(SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20
ボール回転軸
θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)
[計算結果]
同時にリリースし、同じコースに投げられたカーブとストレートの軌道計算結果をプロットすると、以下のようになりました。
上から実際の速度のgif動画、1/10倍スローのgif動画、静止画です。
gif動画(実際の速度)
gif動画(1/10倍スロー)
- カーブ(120km/h)はリリースから捕球まで0.57秒かかる
- ストレート(140km/h)はリリースから捕球まで0.49かかる
わずかな時間でも結構進む
投手のリリースから捕手の捕球まで、カーブは0.57秒、ストレートは0.49秒かかります。
そのため、カーブの方が0.08秒余計に時間がかかるということになります。
日常生活なら気にも留めないわずかな時間差ですが、盗塁を成功させようと必死に走っているランナーにとっては大きなアドバンテージです。
この0.08秒の間にランナーはどれだけの距離を進めるでしょうか?
ランナーの走速度が時速27km/hとして計算すると、
v=27km/h = 7.5m/s:ランナーの走速度t=0.08 s :余計に走れる時間L= v × t = 7.5 × 0.08 = 0.62 m = 62cm: 余計に走れる距離。
カーブのとき、ランナーはストレート時よりも0.08秒余計に走る時間が与えられ、その間に62センチ余計に距離を走ることができる。
大きなリード
相手投手がカーブを投げる時でもストレートを投げる時でも、ランナーのとるリードの大きさは同じです。
けん制球が来たとき、ぎりぎり戻れるところまでしか出られません。
カーブのとき62センチ余計に走れるということは、言い換えるとストレートのときに62センチより大きくリードをとった状態からスタートできるのと同じです。
そう考えるとカーブのときに盗塁することがいかにランナーにとって有利かが良く分かります。
ランナーを警戒してストレートを投げるか、打者を打ち取るために変化球を投げるか。
バッテリーとの心理的な駆け引きもまた、野球の面白さの一つです。
では、また。
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