バージョンアップ
今回は久々に軌道シミュレータをバージョンアップします。
ver.3.2をver.3.3へと改良して、屋外球場における追い風や向かい風を考慮した軌道計算ができるようにします。
今回は上下、左右方向の風は考慮しません。また風は一様で、風向きや風速は時間により変化しない定常状態であるとします。
球速から相対速度へ
追い風や向かい風の影響を計算式に取り入れるのは、割と簡単にできます。
これまで球速として扱っていたものを、ボールと空気の相対速度、つまり球速から風速を引いたものに変更するだけです。
例えば、球速140km/hの球が、風速5m/s(=18km/h)の向かい風の中を飛んでいくとき、ボールと空気との相対速度は、140-(-18)=158km/hとなります。
相対速度、揚力L、抗力Dはいずれも等しい
つまり、球速140km/hの球が風速5m/sの向かい風の中を飛んでいくとき、ボールは158km/hの球が無風状態で受けているのと同じ抗力Dや揚力Lを受けることになるのです。
また、極端な場合としてボールの球速がゼロで、静止しているところに時速158km/hの風が吹き付けるときにも相対速度は158km/hとなるため、同じ抗力Dや揚力Lを受けます。風洞試験では通常そのように物体を固定し、風速を物体が動くと想定する速度に合わせてやることで、等価な状態を作りだし、抗力係数や揚力係数を求めています。(厳密にはレイノルズ数という値が同じになるにして、相似の流れの中で行います。)
計算式
では、具体的な計算式の変更点です。
●空気力
飛翔中のボールは空気から力を受けます。
ブレーキとして働く抗力Dおよび、軌道を曲げる力として働く揚力Lの2つです。
それぞれ下式のように計算され、速度vの二乗および抗力係数CD、揚力係数CLに比例します。
(CD:抗力係数、CL:揚力係数、ρ:空気密度、v:速度、A:ボール断面積)
●無風のとき
上式の速度vは、これまで球速として扱ってきましたが、正確にはボールと空気の相対速度です。相対速度は、球速から空気の速度(風速)を引いた値になります。
無風の場合、風速はゼロのため、ボールの球速がそのまま相対速度になります。
そのため、風を考慮していない軌道シミュレータver.3.2ではvを球速として、以下のような式で各方向の加速度を計算しています。
●追い風・向かい風があるとき
追い風や向かい風、つまりx方向に風速wの風があるときは、x方向の球速であるdx/dtの部分を、相対速度dx/dt-wに置き換えてやることで、風の影響を考慮した加速度(空気力)にすることができます(下図①)。
向かい風(w<0)のときはdx/dt(球速) < dx/dt-w(相対速度)のため、無風のときよりも抗力D、揚力Lともに大きくなります。
向かい風でブレーキとして働く抗力Dが増加するのは、経験上の感覚とも一致する当たり前のことです。
揚力Lが増加するというのはイメージしにくいかもしれませんが、ZOZOマリンスタジアムでは強い向かい風のため他の球場よりもカーブがよく曲がる、と言われています。
また、抗力係数CD、揚力係数CLは、ボールの回転数と相対速度の比に比例するスピンパラメータSPによって決まるため、CD,CLを相対速度のSPに合わせて変更してやります(下図②)。
(CD,CLとSPの関係詳細は第20回、第35回を参照ください。)
エクセル数式の編集
それでは、ver3.2のエクセル数式を編集してver3.3を作っていきます。
風速
まず、B列に風速を入力する欄を追加します。
ボールの進行方向を+x方向としているため、風速wは追い風ならw>0、向かい風ならw<0となります。
今回は少し強めの向い風、風速5メートルを想定して、w=-5[m/s]としました。
その他の初期条件は、プロ投手の平均的な4シームを想定した値が入力されています。
①-1 x方向加速度
x方向加速度(d2x/dt2)を計算しているF列セルの数式内で、G列のdx/dtを参照している部分を、先ほどB列15行目に追加したwを差し引いて相対速度dx/dt-wになるよう、下図赤線のように変更します。
これで向かい風を考慮した抗力になります。
①-2 y方向加速度
同様に、y方向加速度(d2y/dt2)を計算しているI列セルの数式内で、G列のdx/dtを参照している部分を、B列15行目のwを差し引いて相対速度dx/dt-wになるよう、下図赤線のように変更します。
これで向かい風を考慮した横方向揚力になります。
①-3 z方向加速度
同じく、z方向加速度(d2z/dt2)を計算しているL列セルの数式内で、G列のdx/dtを参照している部分を、B列15行目のwを差し引いて相対速度dx/dt-wになるよう、下図赤線のように変更します。
これで向かい風を考慮した上下方向揚力になります。
②CD、CL
最後に、相対速度で計算したSPに基づき、CD,CLの値を変更してやります。
完成です!
エクセルグラフ化
計算結果をグラフでプロットすると、このようになります。
風の考慮なし(無風)のver.3.2と重ねてみました。見やすさのために上に0.3mずらしてあります。
向い風により、少し押し戻されていることが分かります。
無風の場合と比べると、26cmの差をつけられ、0.008秒遅れてホームベース上(x=18.44m)に到達します。
では、また。
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