2024年8月3日土曜日

第164回 ホームランを打ちたいならセンターに打つな、引っ張れ

 


引張り8割、センター返し1割5分

プロ野球のホームランはほとんどが、引っ張った打球です。右打者ならレフトへ、左打者ならライトへの打球です。

センター返しでのホームランはめったに見られません。

NPB全体では443本のホームランの内、引張りが354本で80%を占めます。センターへのホームランはわずか65本で15%にすぎません(*1)

センター返しをするよりも引っ張った方が5倍以上ホームランになりやすいということです。


個人でみても

個人でみても同じです。

去年41HRで本塁打王を獲得した巨人岡本和真選手はレフトおよび左中間へのホームランが36本で、センターと右中間は2本ずつだけです(*2)。引っ張りが88%を占めています。

中日の田中幹也選手が身長166cm体重68kgというプロ野球選手とは思えない小柄な体格でありながら、今シーズンすでに2本の本塁打を放っていることは称賛に値します。その2本はいずれもレフトポール際へ、高く打ち上げた打球でした。

アベレージヒッターのレジェンドであるイチロー選手は現役時代、試合前のフリーバッティングでスタンドにぽんぽんと打球を放り込むこんでいたことはよく知られています。打球速度がしっかり出ていることを確認するのが目的で、試合用の打ち方とは変えて、いつもライト方向へ引っ張っていました。


遠くのセンターより近くのレフト

引張った方がホームランになりやすい理由は明白です。

両翼はフェンスまでの距離が近く、センターは遠いからです。

プロ野球の標準的な球場では両翼100メートルで、センター122メートルです。

センターにホームランを打とうとすれば22メートルも余計に、遠くまで飛ばさなければなりません。

そのためにはより大きな打球速度が必要です。

計算上センター方向にホームランを打つためには、レフト・ライト方向に比べて打球速度が20km/h余分に必要です。

下図は打球角度と回転が最適条件の場合(上向き30度、2500rpmのバックスピン)で、ホームランを打つために、最低限必要な打球速度の計算結果です。



いつも不思議に思うのですが、センターへの大飛球がウォーニングゾーンでキャッチされたとき、解説者は「少しつまった分、もうひと伸びたりませんでしたね」とか、「泳がされた分だけ、最後に失速しましたね」とか、「迷いがあったから、打球にも力がありませんでしたね」とか、あるいは風や雨のせいだと言います。
「センターに飛んでしまいましたからね。もう少し横に打っていればホームランでしたね。」とは、なぜか言いません。

当たり前すぎることは、かえって言及されないのかもしれません。

大谷翔平選手はセンター方向にもホームランを量産しますが、それはたびたび報じられるように打球速度が桁外れだからです。170km/h台は当たり前で、180km/h台も頻繁に記録します。例外中の例外なので普通の一流のパワーヒッターが参考にしてはいけません。
それに彼にしても最初からセンターを狙っているわけではなく、右中間を中心に打ち返していく中で、狙いからずれてセンター方向に飛んでしまっても入ってしまうというだけです。

当たり前すぎるがゆえに忘れられがちなので、あえて言います。
「ホームランを打ちたいならセンターに打つな。引っ張れ」
ポール際に高く打ち上げろ。
それでファールになったり、外野フライに終わったなら致し方なしです。
トータルではそれが最も確率の良い方法です。
通算で何百本も打ったレジェンドたちはみんなそうしていました。


逆方向は満足感だけ

ホームランの打球方向は引張りが80%、センター返しが15%で、逆方向は残りの5%です。

逆方向への打球は、センター返し以上にホームランになりません。打球速度が遅いためです。

それでも逆方向へのバッティングを好む選手がいます。
逆方向へ打つにはテクニックが必要とされるため、うまく打てると高い満足感が得られます。玄人からも称賛されます。
それが落とし穴になっている気がします。

どんなにうまく打ってもしょせんシングルヒットです。得点期待値は高くありません。弱い打球を打っても長打は期待できないし、相手投手も怖がらないため四球も増えません。中軸を打つ選手はそれではだめです。

石川昴弥選手は今シーズンのオープン戦でホームランを打ちました。変化球に泳いだ決してよくないスイングで、打球も上がりすぎのように見えました。それでもレフトポール際へ飛んだ打球はバンテリンドームの高いフェンスを越えてしまいました。
まじめすぎて大成しない選手の場合には、こんなのでもいいんだという、気づきと開き直りが必要なのかもしれません。





なぜセンターは広いのか

さて、ではなぜ野球場のセンターは両翼より広くなっているのでしょうか?

ソフトボールのように一律の距離ではいかんのでしょうか。


これについてはもはや、誰も理由を知りません。野球創成期にそう決まって今日まで続けられています。

ネット検索しても図書館で調べてもお年寄りに聞いても分かりません。これという理由がないのでうんちくとして語られることもなく、クイズにもならず、また理由が分からないので反論を受けて改善されることもありません。

なぜそうなっているか誰も知らないからとりあえずそのままにしておこうは、仕事中にもよく出会いますね。


説1 飛距離が出るから

それでも有力な説はあります。

最有力候補は「センター方向は打球の飛距離がでやすいから」です。

(a)打球速度

センター返しの方が打球速度が出る、その分飛距離が出る。公平を期すためにセンターを広く調整した、といわれています。

実際どうでしょうか。

大学生の調査(*3)ではシンの速い球を打った時にはセンター返しの方が打球速度が速い(引張り113.4km/h、センター返し119.2km/h)という結果が出ています。センター返しで打球速度5.7%アップです(119.2/113.4=1.057)。

ただし反対の結果もあります。

(*3)において手投げの緩い球を思い切り打った時には、引張りの方がむしろ速かったそうです。

また別の資料を当たると、参考文献(*4)では反発係数と摩擦係数の小ささから、引張りの方が打球速度が速いと考えられています。

Baseall savantのillustlaterで大谷翔平選手や鈴木誠也選手の打球にEV100mph以上のフィルターをかけてみるとセンターにも引張り方向にもまんべんなく分布しています(*5)。右中間、左中間を中心に分布しているので、引張りと言えるかもしれません。

道具の性質と選手の動作の両方がかかわる問題で複雑なため、どちらが速いのかはっきりとした決着はまだつけられないようですが、とりあえずここでは説1を裏付ける根拠として(*3)のマシンの結果を使ってセンター返しの方が速いとして先に進めます。


(b)ボールの回転軸

また別の研究では打球方向により、ボールの回転軸が異なりそれが飛距離に影響しているという結果が報告されています。(*6)(*7)

センター返しの方がきれいなバックスピン回転に近いため真っすぐよく飛びます。引張りはバットが斜めに当たりサイドスピンがかかるため、打球が曲がってしまい飛距離が落ちます。

引張りの打球は、ゴルフでいうフックがかかりがちです。

ポールに向かって一直線に飛んでいった打球が、最後の最後で曲がって切れてがっかり、はプロ野球観戦につきものです。7/19の中日×巨人戦の7回、岡本和真選手が高橋宏斗投手から打った打球がまさにそれでした。あっぶねとつぶやいた高橋投手の笑顔と、その直後に裏をかいて続けたカーブが印象的でした(*9)

参考文献(*7)によれば、打球速度100mph(≒160.9km/h)、上向き25-30度、バックスピン成分2000-3000rpmの打球では、サイドスピン成分のないきれいな縦回転の場合では飛距離が400ft(≒121.9m)です。それに対し、サイドスピンが1500rpm加わってしまうと385ft(≒117.3m)まで落ちてしまいます。回転の違いが打球方向の違いによるものとすれば、センター返しで飛距離3.9%アップです(121.9/117.3=1.039)。

ちなみにセンター返しでも打球は完全に真っすぐ飛んでいくわけではありません。シュートする方向、ゴルフで言うところのスライスをしています。右打者であればセンター返しした打球はライト方向へ曲がっていきます(*8)。参考動画(*10)は、ソフトボールでティー打撃ですが、センター方向へ打ち上げた打球がスライスしているのがよく見て取れます。バットは水平ではなく、ヘッドがグリップよりも下がった状態で打つため、完全なバックスピンにならず少しシュート回転がかかると考えられます。回転軸だけを考えれば引張り方向の左中間、右中間がもっとも横回転が少なく真っすぐ飛んで飛距離が出やすい可能性があります。


(c)トータル

飛距離が打球速度に比例するとしてざっくり概算してみます。

(a)と(b)の増加率を掛け合わせると、センター返しの打球は引張りに対して約10%飛距離がアップすることになります(1.057×1.039=1.099)。

引張りで100mの飛距離が、センター返しなら110mの飛距離になるというわけです。

両翼フェンスが100mで、センターフェンスが122mですから、全然届かないですね。



厳しすぎるハンデ

センター返しの方が打球が飛ぶというのが真実だとして、その調整のためにセンターが両翼より深くなっているのだとしても、10mの飛距離アップに対して22mフェンスを下げるのはやりすぎです。

割に合いません。

体重超過したボクサーを、ペナルティーとして両腕を縄で縛った状態でリングに上げるようなものです。

過度なハンデを課されたセンターへの大飛球はホームランになることを許されず、外野手のグラブにおさまることを運命づけられました。


公平性or多様性

ホームランに公平性を求めるならば、今からでもセンターフェンスを前に出すようにルール変更するのもありだと思います。ベースの大きさをあっさり変えてしまえるMLBのフットワークの軽さなら不可能ではないと思います。ホームランテラスを左中間、右中間につけたような感じで、センターにつけてみてもいいかもしれません。

また反対にソフトボールでは両翼とセンターが同距離のために、センター方向ばかりにホームランが出るようならば、センターフェンスを少し下げるべきです。


とはいったものの、両翼とセンターの距離の違いにより外野手の守備範囲に差が生まれ、それが起用される選手タイプの多様性につながっているのもまた事実です。

広いセンターには岡林選手のような俊足強肩の選手が配置され、狭いレフトには細川選手のような鈍重なパワーヒッターが配置されます。フェンス距離が同じソフトでもセンターは俊足、ライトは強肩、レフトは打力も重視というセオリーは同じようですが、野球ではより強調され、それがまた魅力の一つになっています。

もし外野手3人がみな同じようなタイプの選手になってしまったら、ちょっと寂しいかもしれません。



説2 土地の有効活用

さて、長くなってきて蛇足かもしれませんが、もう一つの説です。簡潔に。

土地を有効活用するためです。

正方形に内接する円が面積に占める割合は、約78.5%(π/4≒0.785)です。この割合は1/4にカットした、90度分の扇形でも同じです。

ソフトボール場のようにセンターと両翼の距離を同じにすると正方形の土地の21.5%、1/5以上を使わず無駄にしてしまいます。

もっと広い面積をグランドとして使えるようにセンターを深くしようぜ、だけど角があるとプレーしづらいから両翼となめらかにつないどこうぜ、というわけです。

この観点では、狭い東京に建設された東京ドームが四角い形をしているのは合理的です。


*****

センターが広い理由については他にもいろいろ説があると思います。そういうのをあれこれと考えるのもまた、つきることのない野球の楽しさの一つです。


ではまた。




参考文献:

 (*1) 中日スポーツ 2024年7月9日 2面

 (*2) Sluuger特別編集 2024プロ野球オール写真選手名鑑 日本スポーツ企画出版社

 (*3) 異なる投球速度が大学野球選手の打球速度に及ぼす影響 鈴木智晴(鹿屋体育大学)他

 (*4) BMMスポーツ科学ライブラリー 科学する野球 バッティング&ランニング 平野裕一著

 (*5) Baseball Savant 大谷選手鈴木誠也選手

 (*6) 野球日誌

 (*7) Why Does a Fly Ball Carry Better to Centerfield? Alan Nathan

   (*8) 野球の打球の初速度・方向とその飛距離との関係について 及川研

 (*9) 中日スポーツ 巨人・岡本和の大ファウルを逆利用…中日・高橋宏を支える『度胸』ナックルカーブ連投で追い込み空振り三振に

 (*10) qooninTV 【弾道オバケ】日本代表4番のソフトボールを飛ばすコツ|飛距離60mアップでホームラン連発


第163回 ソフトボールのホームラン打球速度は何キロか、野球と比較

 

近いフェンス

ソフトボールと野球のルールの違いの一つに、外野フェンスまでの距離があります。

ソフトボールは女子一般が67.06メートル、男子一般が76.20メートルです。野球はプロ野球の標準的な球場で両翼100メートル、センター122メートルです。

これはそのホームランに必要な打球飛距離の違いであり、打者の能力としては打球速度の違いとして求められます。

ソフトボールの方がフェンスまでの距離が近いため、野球ほどの打球速度は必要ないことが予想されます。試合で飛び交う打球を目視しても野球より遅いのは明らかです。

ではソフトボールでホームランを打つためにはどのくらいの打球速度があれば十分でしょうか?

今回はソフトボールでホームランを打つために必要な打球速度を軌道計算で求めてみます。


ソフトボールホームランの軌道計算

[計算条件]

ソフト・野球の各フェンスを越える飛距離となるときの打球速度を求めます。

球速以外の条件は飛距離を出すのに適した上向き30度と完全なバックスピン回転の組み合わせで、回転数はソフトが1000rpm、野球1500rpmとします。

飛距離アップのためには高く打ち上げることと、バックスピン回転を与えることが重要である(*1)のは野球と同じです。

シミュレータへのインプット値は以下のようです。

ボールの違いも考慮しました。抗力係数CDおよび揚力係数CLの値は参考文献(*2)の計算式に基づいています。

ソフトホームラン入力値

[計算結果]

計算結果は以下のようです。

参考に各外野フェンスも表してあります。距離は上述の通りで高さはソフトが1.2メートル、野球は4.8メートルとしています。

ソフトボールホームラン打球速度

ソフトボールでホームランを打つために必要な打球速度は女子一般で120km/h、男子一般で130km/hとなりました。


野球より遅い

ソフトボールのホームラン打球速度は野球よりも20~30km/h遅い、という結果になりました。

順番的にはソフトボールの方が野球よりも打球速度がでないため、それに合わせ外野フェンスが近く設定されています。

打球速度が遅いのはソフト選手の能力が劣るせいではなく、道具の、バットとボールの問題です。

大谷翔平選手の特大ホームランよりも、そこらへんのプロゴルファーのティーショットの方が遠くまで飛ぶのと同じです。


大学生で95km/h、トップでも110km/h弱

女子ソフトボール選手が120km/hの打球速度を出すのは、どれくらい大変でしょうか?

プロ野球の感覚になれていると大したことないと思いがちですが、そんなことはありません。

打球速度の実測データによると、大学女子ソフトボール部員で90km/h強が最大です(*3)(*4)

JDリーグの選手でも110km/h弱(*5)です。(JDリーグは"Japan Diamond Softball League"の略で、参加しているのは社会人チームです。女子大生ではないです。)

120km/h以上出すのはソフトボール強国日本の、国内トップリーグ選手でも容易ではないレベルだということです。


同じ速度帯

ホームランを打つのに必要な打球速度は、トップレベル投手の投球速度とちょうど同じ速度帯になっています。

野球でもホームランを打つために必要な打球速度と、トップレベル投手の球速が近い値になっています。

高速で飛んできた球が、同じぐらいの高速で打ち返され遠くまで飛んでいく。

それがソフト・野球をプレーおよび観戦する人間が無意識下で、楽しさや心地よさを感じる要因の一つになっているのかもしれません。


ではまた。



参考資料

 (*1) qooninTV 【弾道オバケ】日本代表4番のソフトボールを飛ばすコツ|飛距離60mアップでホームラン連発

 (*2) ソフトボールの打球解析と防球ネット解析 長島慎二 NLABO.BIZ

 (*3)  大学女子ソフトボール選手における後方トス・バッティング練習が打撃パフォーマンスに与える即時的影響 嘉屋 千紘,熊野 陽人

 (*4) 大学ソフトボールにおけるホワイトボールとイエローボールの違いについて 河邉 まな美

 (*5) 女子ソフトボールチームに対するスポーツ科学サポート 澤井 拓実  公益財団法人岐阜県スポーツ協会岐阜県スポーツ科学センター 表1


2024年7月21日日曜日

第162回 Excelでソフトボール場を作図する

 

幾何学的

私は野球が好きですが、女子ソフトボールも好きです。
3年前の東京五輪でのダブル金メダル獲得は最高でした。
今回のパリ五輪は野球・ソフトボールがないので寂しさを感じています。

さて今回はソフトボールのグラウンドを、Excelを使って描いてみたいと思います。女子一般国際ルールです。
ルールにより各寸法が定められたグラウンドは幾何学的で、整った形をしています。
そのため、適当な座標系を指定し、簡単な寸法計算をするだけで作図することができます。



ホームベース

まず最初は、ホームベースです。これは野球と共通です。

野球・ソフトをやる老若男女みんなが同じホームベースを使ってプレーします。

家のような形をしているため"ホーム"ベースと呼ばれますが、正五角形ではなく、一辺が43.2cmの正方形の角2つを辺の中点で結ぶラインで切り落とした形をしています。

ベース後端(捕手側)の点を原点にとり、センターラインをy軸、一塁方向を+x軸にとります。

Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。単位はメートルです。

ホームベースの作図



バッターボックス、ファールライン

次は左右のバッターボックスとライト、レフトのファールラインです。

バッターボックスは縦2.13メートル、横0.91メートルの長方形です。野球の縦1.824メートル、横1.219メートルに比べ縦長でピッチャー側に長くなっています。

ファールラインはホームベース後端(上図の点0)からセンターラインに対しそれぞれ45度の方向に67.06メートル先まで伸ばされた直線(線分)です。45度のため、√2で割るだけでの伸ばした先の端点、すなわち両翼ポールの点のx,y座標を求めることができます(cos45°=sin45°=1/√2)。


Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

バッターボックス、ファールラインの作図

野球のボックスとも重ねてみました。赤線がソフトで、青が野球です。

上記のバッターボックス寸法の違いにより、ファールラインの始点が異なります。野球ではボックス前側からファールラインが生えていますが、ソフトボールは外側から生えています。

野球に慣れている人にとってはちょっとした違和感ですが、ぱっと見で野球場かソフトボール場かを見分けるよい目印にもなります。

またこうして改めてみると、野球のボックスは無駄に横幅が広い気がします。巨人坂本選手はホームベースから離れて立ちますが、それでもせいぜい30cm程度ですから、ソフトボールの幅でも十分納まります。




123塁ベース、ピッチャープレート

次は1,2,3塁の各ベースと、ピッチャープレートです。

ソフトボールの塁間距離は18.29メートルです。

野球の27.431メートルよりも10メートル弱短くなっています。

野球部員が体育の授業でソフトをやったとき、打球を見ながら走っていたら、いつの間にかベースを通り過ぎてしまってみんなに笑われるのは、あるあるです。

2,3塁ベースのサイズは野球と同じで、一辺38.1cmの正方形です。(MLBは23年から大きくなりました。)

1塁ベースのみソフトボール特有で2つ分のサイズ、白橙2色のツートンカラーがおしゃれな"ダブルベース"です。

ダブルベースはいいものです。安全が確保されてるからこそ全力プレーができます。

一塁手の足を踏んでしまう恐れがないので、セーフになることだけを考えて一目散にベースを駆け抜けられます。

ボクシング選手だって、もし審判が止めてくれなかったら怖くて相手を殴り続けることはできません。


ピッチャープレートはホームベース後端から13.11メートルの位置ある、縦15.2cm、横60.9cmの長方形です。

男女や年齢によって少しずつバッテリー間の距離が異なります。男子一般14.02m、中学女子12.19m、小学生10.67mなどとなっています。

野球のような盛り土マウンドが必要ないため、競技者の体力に応じて柔軟に距離を変えられるのはソフトボールの良いところです。


Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

これで、直線で描ける部分は完成です。

ベース、ピッチャープレートの作図



ピッチャーズサークル、グラスライン

さて次は、ピッチャーマウンドとグラスラインです。これは円と円弧で描かれます。

ピッチャーズサークルはプレート前側中央を中心点とした半径2.44メートルの円です。野球のように盛り土はなく平らです。前方への偏りもありません。

ソフトボールのランナーは野球と違い、リードも盗塁も禁止されています。

より具体的にはピッチャーがボールを持ってこのピッチャーズサークル内に入ると、投手の手から球が離れるまで、ランナーはベースから離れることができなくなります。

グラスラインは内野想定線、あるいはスキンドインフィールドとも呼ばれる、内野の土と芝生の境目を表すラインです。ピッチャープレート後端中央を中心点とした、半径18.29メートルの円弧です。


点を結んで正確な円や円弧を描こうとすると、無数の点が必要となります。実用的な方法として、等角度おきに点を配置した正多角形で近似します。正多角形で近似する方法は円周率の値を求める際などにも利用されます。

ここではピッチャーズサークルは15度おきにしました。360/15=24なので、正24角形となります。

グラスラインは半径が大きいので、プロットした時線がガタガタにならないようもう少し細かくして10度おきにします。

cosとsinでxとyの座標値を計算していくのですが、Excel数式では三角関数を計算する際、角度をなじみのある度(deg)から、ラジアン(rad)に必要があることに注意です。セルへの数式入力の仕方は"RADIANS"を使って、例えば"=2.44*COS(RADIANS(0))"とします(下図のx33の場合)。

Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

いい感じになってきました。

ピッチャーズサークル、グラスラインの作図



外野フェンス

最後は、外野フェンスです。

ホームから外野フェンスまでの距離は国際ルールでは67.06メートル以上と定められています。

ホーム後端を中心点とした円弧のため、どの方向でも同じ距離になります。

野球のように無理に引っ張らなくても、センター返しでホームランを狙うことができます。

45度から135度まで5度おきでExcelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

外野フェンスの作図

完成です!

座標計算した94個の点たちを結ぶことで、ソフトボール場を描くことができました。




野球と重ねると

おまけで、野球場と重ねてみます。

野球場の外野フェンスは以前計算した、プロ野球本拠地の中でも広いと言われるバンテリンドームナゴヤのものを使います。

ちなみにバンテリンドームの外野フェンスも幾何学的に整った円弧形状ですが、その中心点はホームベース上ではなくインフィールドラインのあたりにあります。

それにより円弧でありながら両翼100m、センター122mというプロ野球の標準的なサイズを満たしており、また同時にそのせいで、他のどの球場よりもホームランになりにくい深い深い左中間・右中間が形成されています。

ソフトボール場と重ねると下図のようです。

野球場&ソフトボール場

外野フェンスの距離感がまるで違います。

ソフトボールの方がフェンスが近いのは、野球よりも飛距離がでないからですが、それは選手の能力の問題ではなく道具の差によるものです。


*****

2028年のロス五輪が今からもう、楽しみです。



では、また。



    参考Webサイト
    (*1)公益財団法人日本ソフトボール協会
        http://www.softball.or.jp/info_knowledge/kiso/tisiki/yougu.html
    (*2)コウフ・フィールド株式会社
        https://catalog.kofu-field.com/book/#target/page_no=69



2024年7月17日水曜日

第161回 プロ投手のストレートは小学生投手、高校生投手とどれくらい違うのか?

 


プロとアマチュアの差

プロ野球投手とアマチュア投手の差は何でしょうか?

コントロール、変化球のキレ、球種の豊富さ、ボールの出どころの見づらさ、体力、メンタル、などなど。

いろいろ要素はありますが、やはりストレートの威力の違いが一番ではないでしょうか。


ストレートに差し込まれまいとするから変化球に泳いでしまうし、ストレートに威力があるから少々甘いコースでもとらえきれなくなります。

腕の振りが速いからこそ、変化球でも強い回転をかけられます。手先の器用な小学生がプロと同じ回転軸の球を投げられたとしても、プロのように鋭い変化をさせることはできません。

大きくホップするストレートがあるから、回転数を落として少し沈ませるだけで簡単に空振りをします。山なりのストレートを投げる小学生が自由落下に近い落ち方をするフォークを投げても、お化けのように打者の視界から消えることはありません。


今回はプロ投手の投げているストレートが、小学生投手や普通の高校生投手とどれくらい違うか軌道計算して比べてみます。


計算条件

球速は小学生投手、普通の高校生投手、プロ投手でそれぞれ95km/h,120km/h145km/h,とします。

回転数は球速に応じた値とします。回転軸は下図の様で、高レベルほどシュート回転、ジャイロ回転のより少ない回転軸とします。

リリースポイントは高レベルほど体のサイズが大きいと想定し、小学生はバッテリー間距離の違いも考慮します。バッテリー間距離は一般が18.44mで、小学生は16.00mなので、2.44mm手前から投げることになります。

[計算条件]


   

[計算結果]

計算結果は以下のようです。

グラフ上の点はリリースから0.02秒おきのボールの位置を表します。

小学生、高校生、プロのストレート

お辞儀

高レベルほど上下軌道のお辞儀が少なくなり、より直線的です。

三者ともストライクゾーンの同じ高さに投げる条件で計算していますが、投げ出す角度は高レベルほどより下向きになります。

小学生は水平よりも上向きに投げ出し、途中で落ちてくる山なりの軌道です。

高校生はほぼ水平に投げ出されしばらく真っすぐ飛んでいきますが、ホーム手前で少しお辞儀します。

プロは水平よりも下に向かって投げ出され、そのまま大きく垂れることなくホームまで飛んでいきます。

レベルが上がるほどより下に向かって投げ出するため、マウンドの傾斜が必要になってきます。


到達時間

リリースからホームベース(x=18.01m)到達までにかかる時間は、小学生で0.60秒です。高校生は0.52秒で、プロは0.43秒です。

小学生は一般よりも2.44メートル手前(=18.44-16.00)から投げますが、それでも球速の速い高校生の方が短時間でホームまで到達します。

今回の条件では高校生の球は小学生より0.08秒(=0.06-0.52)早く到達します。一方、プロの球は高校生より0.09秒(=0.52-0.43)早く到達するので、プロ投手と普通の高校生投手のストレートの差は、高校生と小学生ほどの大きな差があるということになります。


3Dプロット

上記の計算結果を3Dプロットしました。

捕手側からの視点

小、高、プロストレートgif捕手視点


投手側二塁よりからの視点

小、高、プロストレートgif二塁手視点

動画にすると勢いの違いがよく分かります。

高校生の投げる120km/hのストレートでも実際に打席に立つと一般人にはとても手に負えない速さなのですが、プロの145km/hを見た後ではチェンジアップのようです。



ではまた。




2024年6月29日土曜日

第160回 中日小笠原慎之介投手のカーブ軌道

 


カーブを多投

プロ野球においてカーブは投球割合が低く、あまり投げられません。

速くて手元で小さく曲がる変化球が主流で、遅くて大きく曲がるカーブは打者が予想していないときに裏をかいて見逃しストライクを取る球として使われます。

多投して狙われてしまうと危険な球です。

そんな中でセ・リーグでもっとも高い投球割合(20.9%(*3))でカーブを投げながら、リーグ2位の被打率(.172)に抑えている中日ドランゴンズの先発左腕、小笠原慎之介投手は球種の多様性を保つうえで貴重な存在です。

彼のカーブは遠く離れた外野席からでもはっきりわかるほど大きく曲がります。

参考動画(*1)によれば、小笠原投手のカーブは59.3cm下に変化しており、これはNPBでソフトバンク・モイネロ投手に次ぐ2番目に大きい値です。

NPB平均の変化量が33.8cmなので2倍弱曲がっていることになります。


軌道計算

小笠原投手のカーブを参考動画(*1)のデータをもとに再現計算してみます。

比較用にNPB平均のカーブも計算しています。

[インプット]

軌道シミュレータへのインプット値は以下のようです。

参考動画(*1)のデータに基づいています。yoなどデータがないものは推定値です。



[計算結果]

グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとの、一番右端のみホームベース前端上(x=18.10m)におけるボール位置を表します。
グレー線は自由落下、回転による変化がないときの軌道です。
破線は直線、回転による変化も重力もないときの軌道です。





特徴1 大きな落差

小笠原投手のカーブの特徴その1は、大きな落差です。

重力による落下と回転による変化を合わせた直線軌道からの落差は189.3cm(=130+59.3)です。
これはNPB平均163.8cm(=130+33.8)より25cmほど、ボール3つ分ぐらい大きな落差です。

重力による落下量は平均的です。球速が118.7km/hで、NPB平均117.8km/hとほぼ同じためです。

回転による変化量の差が、そのまま軌道の差となっています。

小笠原投手の回転数は2645rpmで、NPB平均2460rpmと比べて1.08倍多くなっています。

さらにボールの回転軸がほぼ水平のため、斜めを向いているNPB平均に比べ下へ大きく変化します。

4シームで回転軸の傾きが小さいほうがシュートせず上に大きくホップするのと同じ理屈です。


特徴2 シュートするカーブ

小笠原投手の横変化量は異質です。

左投手のカーブなのに左打席の方へ向かって曲がっています。

カーブなのにシュートしているわけです。

わずか3cmの横変化量なので単体でははほぼ真下に落ちる軌道ですが、NPB平均が15.1cmなのでその差は18.1cmになります。

右打者からすると、左投手のカーブは体の方に近づいて食い込んでくるものという感覚を持っているのため、外に逃げていくような感覚になると考えられます。

球種別投球割合を見るとカーブは相手打者の右左に関係なくほぼ同じ割合(対左20.5%,対右21.2%(*3))で投げています。

スライダーは左打者に多め(左14.7%,右4.8%)、チェンジアップは右打者に多め(左7.5%,右23.7%)となっているため、真下に曲がるカーブと打者から見て外に逃げていく球種でピッチングを組み立てているようです。


ノールックもシュート

カーブがシュートする投手というのは非常に珍しいのですが、過去にも一人いました。

ノールック投法でおなじみの元メジャーリーガー左腕、岡島秀樹投手です。

岡島投手のカーブ変化量は下へ8cm、左打席方向へ5cmほど(*2)です。PITCHf/xでの測定結果のため実際はもっと大きくシュートしていたと考えられます。



3Dプロット

キャッチャー方向からの動画です。

計算結果をリニアングラフ3Dでプロットし、画像をgifでパラパラアニメーションにしています。



ではまた。






参考資料 :
 (*1) ホークス・モイネロの魔球「カーブ」の秘密!半端ない落差を徹底解剖!(夢スポ 2021年10月OA)
 https://www.youtube.com/watch?v=krSXHC6V6lM



 (*2)野球×統計は最強のバッテリーである データスタジアム株式会社 中公新書ラクレ 2015年発行

 (*3)Slugger特別編集2024プロ野球オール写真選手名鑑 日本スポーツ企画出版社 2024年発行


第159回 ソフトバンク モイネロ投手のカーブ軌道

 


魔球カーブ

誰もが投げる平凡な球種でも、その威力が抜きんでていれば魔球扱いされます。

ソフトバンクのキューバ人左腕、モイネロ投手の投げるカーブがまさにそうです。

高いリリースポイントから投げ出された高速の球が打者の頭の上からストライクゾーンへ、急速に曲がり落ちてきます。

その曲がりの大きさはトラッキングデータで実証されています。

参考動画(*1)によれば、モイネロ投手のカーブは60cm以上も下に変化しており、これはNPBでNo.1の値です。

NPB平均の変化量が33.8cmなので2倍弱曲がっていることになります。

この曲がりの大きさは回転数の多さによるもので、NPB平均が2460rpm(rpmは一分間当たりの回転数)なのに対し、モイネロ投手は2985rpmと1.2倍以上です。


軌道計算

モイネロ投手のカーブを参考動画(*1)のデータをもとに再現計算してみます。

比較用にNPB平均のカーブも計算しています。

[インプット]

軌道シミュレータへのインプット値は以下のようです。

参考動画(*1)のデータに基づいています。yoなどデータがないものは推定値です。


[計算結果]
グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとの、一番右端のみホームベース前端上(x=18.10m)におけるボール位置を表します。
グレー線は自由落下、回転による変化がないときの軌道です。
破線は直線、回転による変化も重力もないときの軌道です。




特徴1 高速カーブ

モイネロ投手のカーブの特徴その1は速い球速です。

球速は127.4km/hとカーブにしてはかなり高速で、NPB平均117.8km/hより10km/h近く上回っています。
それでいて重力による落下と回転による変化を合わせた直線軌道からの落差は170.6cm(=110+60.6)であり、NPB平均163.8cm(=130+33.8)を上回ります。

普段の経験から速い球は直線的で、遅い球は大きくお辞儀するという感覚がわれわれには身についています。
10km/h速いモイネロ投手のカーブの方が、10km/h遅いNPB平均カーブよりも大きく下へ変化するため打者は大いに感覚を狂わされます。


特徴2 高いリリースポイント

モイネロ投手のリリースポイントは188cmで、NPB平均168cmよりも20cm高くなっています。

カーブは大きく下に変化するため、ストライクゾーンに入れるには水平よりも上に投げ出さなければなりません。

これがカーブが他の球種よりも早い段階で打者に見破られてしまう原因となっています。

高いリリースポイントから投げることで、より水平に近い角度で投げ出すことが可能になります。

今回の計算ではモイネロ、NPB平均ともにホームベース上を同じ地上60cmを通過するように投げ出し角度θを調整しました。

モイネロ投手は水平から上向き1.5度、NPBは上向き2.0度となっており、0.5度ほど低い角度で投げ出しています。



3Dプロット

キャッチャー方向からの動画です。

計算結果をリニアングラフ3Dでプロットし、画像をgifでパラパラアニメーションにしています。


ではまた。






参考動画 :
 (*1) ホークス・モイネロの魔球「カーブ」の秘密!半端ない落差を徹底解剖!(夢スポ 2021年10月OA)
 https://www.youtube.com/watch?v=krSXHC6V6lM




2024年6月26日水曜日

第158回 ストライクを取るのに最適な腕角度

 


投手の腕角度

投手が投げるときの腕の角度は人により様々です。

巨人大勢投手はサイドスローに近く、中日松山投手はほぼ垂直で縦に腕を振って投げます。中間のスリークォーターでも一人一人微妙に角度が異なります。

最適な腕角度は何度でしょうか?

プロで活躍している投手にさまざなタイプがいる以上、答えが一つに決まることはないでしょう。

それでも対象を限定することで、これに関してはこうだというのは言えるかもしれません。

今回は「ストライクを取るのに最適な腕角度」という視点で考えてみたいと思います。

ポイントは、コントロールがばらつく方向と、ストライクゾーンの縦横比です。


ばらつきは腕角度と平行

コントロールがばらつく要因としてすっぽ抜けや引っ掛かりがあります。

すっぽ抜けた時はボールが予定よりも早く手を離れ、右投手から見て右上にコントロールがずれます。

反対にひっかけたときは予定より遅く離れ、左下にずれます。

そのためコントールのばらつきは腕の角度と平行になります。


左右の上手投げ・横投げ・下手投げを含む様々な投球フォームのピッチャーを含む18名の大学生投手を対象に行った実験(*1)では、コントロールのばらつきは楕円形に分布しその長軸方向、つまりより大きくコントロールがばらつく方向は、投球腕の角度とほぼ完全に一致するという結果が出ています。


暴投王も頭は右だけ

右投げは右上か左下にばらつき、左上や右下に大きく投げそこなうことは稀です。

これは皆さんの経験とも一致することでしょう。

コントロールが悪いことで有名なメジャーリーガー藤浪投手も、頭に当てるのは右打者だけです。左打者の頭には当てません。

阪神時代のオープン戦では、対戦相手の中日が選手を守るため左打者のみで打線を組んだこともあります。理にかなった対処法です。

右対右よりも右対左の方が打者にとって有利と言われますが、これも頭に向かって飛んでくるリスクが低いため思い切って踏み込んで打ちに行けることも一因かもしれません。


ストライクゾーンを広く使う

コントロールのばらつき具合が同じならば、ゾーン幅が広い方向にばらついた方がストライクゾーンに入りやすくなります。

ストライクゾーンは縦長です。

そのため横にばらつくサイドスローよりも、縦にばらつくオーバースローの方がゾーンに入りやすくなります。

ゾーンの縦横比はどのくらいでしょうか?

MLB中継で画面に表示される四角い枠から推定すると、縦はおよそ57.2cmです。

(ちなみにゾーン上限は肩とベルトの中間までというルールですが、実際にはベルト上ボール2個分ぐらいまでというのが日米とも慣例になっているようです。高身長の打者が多いためルール通りだとゾーンが広くなりすぎるためかもしれません。草野球の審判はルール通りとるので案外プロ打者と近いゾーンで試合をしています。)

横幅はホームベースの幅で43.2cm(17インチ)です。

縦の方が1.33倍広くなっています。差は14cmほどでこれはボール約2個分の差になります。

つまりサイドスローよりもオーバースローの方がボール2個分ストライクになりやすい、ということになります。

サイドスローが少数派である一因と考えられます。


勘のいい方はすでにお気づきかもしれませんが、ゾーン斜めの対角線ではもっとも幅が広くなります。
対角線の幅は約71.6cm(=√(43.2^2+57.2^2)です。
これはおよそボール10個分の幅で、縦幅よりさらに2個分増えます。


この対角線の角度は53.1度(=tan^-1(57.2/43.2))です。

つまりコントロールのばらつき具合が同じならば、腕の角度を水平から53.1度にして投げると最もストライクが入りやすい、ということになります。


あまりレベルの高くない草野球の投手においては、コーナーを突いて打者を抑えることよりも、とにかくストライクを投げることが求められます。
せっかく日曜日に集まってみんなで楽しんでいるのだから、四球連発でしらけさせるのは避けたいものです。
もちろんコントロールのばらつきを抑えるのが本筋ですが、どうしてもばらついてしまう人は腕の角度をストライクゾーンの対角線に合わせて、あとはど真ん中めがけて投げることをお勧めします。


四角なゾーンを丸くとる?

ところで、この対角線投法に待ったをかけるような調査結果もあります。

参考文献(*2)によれば審判がストライクとコールするゾーンは四角でなく丸いという調査結果が出ているそうです。

四隅の角はあまりとってもらえないようです。

そういえば昔の解説者はよく「フォークボールは外角低めより、真ん中低めから落とした方がバッターが振りやすい」と言っていました。

それもこの丸いゾーンが故かも知れません。

もし本当に四隅をとらないなら、対角線と平行な53.1度投法のメリットはなくなってしまいます。真上から投げたほうがむしろゾーンは広いかもしれません。

これもまたロボ審判導入によりルール通りの四角いゾーンになれば、状況が違ってくるかもしれません。


ではまた。



 参考文献
  (*1) 野球における投球誤差分布 進矢正宏 日本神経回路学会誌 Vol.24, No.3(2017) 116-123
  (*2) 統計学が見つけた野球の真理  鳥越規央著 講談社 2022年発行 第9章

2024年6月23日日曜日

第157回 OPSに盗塁を加味するとどうなるか

 


OPSの低いアベレージヒッター

打者の能力は長打率と出塁率を足し合わせた、OPSで評価されるのが一般的になりました。

この指標は長打率が高い長距離打者に有利な指標です。シングルヒットの多いアベレージヒッターは、打率が悪くなくても長打率が低いためOPSが小さくなります。

OPSが広まるほどアベレージヒッターは低く評価されるようになり、プレースタイルを悪く言われているのを聞くと少し悲しい気持ちになります。

アベレージヒッターを擁護するよい方法はないものでしょうか。

その一案として盗塁が挙げられます。

「シングルヒットでも盗塁をすれば二塁打と同じ」というわけです。


これを考慮してOPSを計算しなおしたらどうなるか、というのが今回のテーマです。


OPSに盗塁を加味する式

以下のような計算式を考えてみました。

 長打率=塁打数/打数 → 長打率a=(塁打数+盗塁-盗塁死)/打数

 出塁率=出塁/(打数+四死球+犠飛) → 出塁率a=(出塁-盗塁死)/(打数+四死球+犠飛)

 OPS=長打率+出塁率 → OPSa =長打率a+出塁率a 

盗塁成功したら塁打数が一つ増え、盗塁失敗したら塁打数と出塁数が一つずつ減るとしました。

盗塁成功したらシングルヒットが二塁打になり、盗塁失敗したらシングルヒットが凡打になるとして扱います。


4/5盗塁王

では実際の選手の成績を使って計算してみましょう。

誰が良いでしょうか?

盗塁と言えば、あの選手ですね。

2018年にドラフト1で指名されると、ルーキーイヤーの19年から昨23年までの直近5年間で4度も盗塁王を獲得した阪神タイガース近本選手です。

彼の23年の成績は長打率.429、出塁率.379、OPS.809ともともと十分立派な数字です。

これに盗塁成功28、失敗3を考慮して上記の式で計算しなおしてみます。

結果は、長打率a.479、出塁率a.374、足してOPSaは.853となりさらにアップします。

非常に良いとされるランクBのOPS.833以上に入ってきます。


レッドスター

かつて阪神には近本選手以上のスピードスターがいました。

2001年から05年まで5年連続盗塁王、NPB歴代9位の通算381盗塁を記録した赤星憲広選手です。

星野監督のもと18年ぶりにリーグ優勝した2003年のデータを使って計算します。

元のOPSは.752です。

これは良いとされるランクCのOPS.767以上に少し届かず、並とされるランクDの評価になります。

これに盗塁61、失敗10を加えて計算すると、OPSa.828となります。

大きくアップしてランクBのOPS.833以上に近い値まで上昇します。


レジェンド2人

近本選手を令和の盗塁王とするなら、平成と昭和は誰でしょうか?

平成はMLB通算509盗塁のイチロー選手、昭和はNPB歴代1位の通算盗塁数1065を誇る福本豊選手ですね。(異論はあると思います。)

この2人はどうでしょうか。

イチロー選手をMLB史上最多のシーズン262安打を放った2004年のデータで計算します。

元の値はOPS.869で、ランクBです。

これに盗塁36、失敗11を加えると、OPSa.890となります。

もともとがランクBと高いことと失敗が11と多いのでそれほど上昇しませんでした。


福本豊選手をNPB史上最多のシーズン106盗塁を記録した1972年のデータで計算します。

元の値はOPS.852で、こちらもランクBです。

これに盗塁106、失敗25を加えると、OPSa.977となります。

素晴らしいとされるランクAのOPS.900以上を軽く超えました。



パワーヒッターが得点能力で輝く一方で、アベレージヒッターの俊足もまた、野球の多様性と魅力を形作ります。

MLBのルール改正(ベース拡大&牽制回数制限)により盗塁が増えることで、この魅力はさらに増すことでしょう。

俊足功打の選手たちがダイヤモンドを駆け巡る姿を、これからも楽しみましょう。


***********
野球の魅力は数字に表れることが多いですよね。
走塁能力を数値化する試みはすでに行われており、例えばRC (Runs Created) や wSB (Weighted Stolen Bases) などがあります。ブルーバックス(*1)でも詳しく解説されています。
でも、私たち一般ファンにとっては、それらの式はまるで古代の遺跡に刻まれた謎の符号のように難解です。
専門家たちは、得点や勝率との関連性を解き明かすために、より高度な指標を追求します。しかし、その結果、式は複雑怪奇なものになりがち。
そこで、私は思いました。「もっとシンプルに、もっと楽しく!」と。
今回の式なら、誰でもエクセルで簡単に計算できます。あなたのお気に入りの選手がどれだけチームに笑顔をもたらしているか、今すぐチェックしてみませんか?

 参考文献(*1) 統計学が見つけた野球の真理  鳥越規央著 講談社 2022年発行

2023年10月8日日曜日

第156回 カーブはなぜ打者に気づかれやすいのか

 

大きく曲がる変化球は×?〇?

カーブは他の変化球に比べて奪三振率や被打率などの指標が劣ります。

曲がりが大きく、早く曲がり始めるため、打者に気づかれやすいのが理由だと言われています。

確かにプロレベルでは速くて小さい変化球が主流です。カーブは打たれやすいため、投球割合が減っています。

では大きく曲がる変化球はダメなのかというと、これに逆張りするかのように、近年横に大きく曲がるスイーパーと呼ばれるスライダーの一種がMLBで注目されています。

同じ大きく曲がる変化球でも、スイーパーは良くてカーブがダメなのはなぜでしょう?


カーブだけ上に、他は下に

それは投げ出すときの上向き角度の問題ではないかと、考えられます。

プロやMLBレベルの投手は球速が速く、また高身長ゆえにリリースポイントが高いため、ストレートでも変化球でも水平より下向きに向かって投げ出されます。

トップスピン回転で他のどの球種よりも大きく下に変化するカーブのみが、唯一、水平よりも上向きに投げ出されます。

スライダーやフォークなど、自由落下に近い落ち方をする球でも低めのゾーンに投げるときは水平よりも下向きに投げ出されます。高めならば水平よりも上向きで投げ出してもストライクになりますが、高めの変化球が危険な球であることはご存じの通りで、狙って投げることはありません。

ストレートは高めであっても水平よりも下向きに投げ出さないとゾーンに入りません。水平よりも上向きに投げ出された場合、頭の高さのくそボールとなります。

従って、投げた瞬間に水平より上向きにボールが飛び出したならば、打者は、カーブor高めに浮いた投げそこないの変化球or高めの完全なボール球のストレート、の三択に絞ることができます。

後ろ二つは恐れるに足らない球です。カーブにのみ気を付け集中することができます。


今回はカーブと他の球種で、投げ出すときの上向き角度がどのくらい違うのか軌道計算してみます。


カーブの投げだし角度の軌道計算

カーブ、ストレート、スイーパーの3球種を低めに投げた時の軌道を計算します。

計算条件は、以下のようです。

[計算条件]

なお、リリースポイントはカーブの方がストレートに比べて高く後ろ側になる傾向があることがトラッキングデータにより知られていますが、ここでは比較しやすさのため同一点としています。


[計算結果]

計算結果は以下のようです。

グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとのボールの位置を表します。

同じ低めのゾーンに投げた場合、カーブは上向き1度で投げ出されます。対してストレートは下向き3度、スイーパーも下向きで1度となっています。


拡大すると以下のようです。

結構、違いますね。



3Dプロット

打者から見て、投げ出した瞬間の上向き角度の違いがどのように感じられるか、3Dプロットしてみました。

上の計算結果がストレート、カーブ、スイーパーの順で再生されます。

上からそれぞれ右打席からの視点、左打席視点、捕手視点を想定したものです。


右打席視点


左打席視点


捕手視点


では、また。

第155回 わたるがぴゅん!の「スコールボール」を再現するとどうなるか?

 


スコールボール

わたるがぴゅん!という野球漫画に「スコールボール」という魔球が登場します。

アンダースローから強烈なトップスピン回転与え天高く投げ上げることにより、上空から急降下してストライクゾーンにほぼ垂直に落ちてくるという球です。


誕生経緯

かなり昔に読んだのでうろ覚えで間違っているとこもあるかもしれませんが、以下のような話です。

沖縄出身の子で、小柄なやんちゃ少年の主人公わたるは投手で「ハブボール」という大きくホップするストレートを武器にしていました。これがいわば魔球1号です。

人差し指と中指の第一関節を曲げてボールに突き立てた、ハブの牙に見えるような握り(元中日のソンドンヨルのような握り)で、強力なバックスピン回転を与える球です。

(ハブは沖縄に生息する毒蛇です。)

しかしトーナメントを勝ち上がっていくうち、その球が通用しなくなり、とうとうホームランを打たれてしまいます。

マウンド上でしゃがみこんでうつむいているわたるをみて捕手で常識人の子が、ショックで落ち込んでいると思って、元気づけようとマウンドにかけ寄ります。

するとわたるは、足元の蟻が餌の奪い合いをしているのをみて、笑っています。

片方の蟻が、餌をくわえて離さないもう一方の蟻を餌ごと持上げてひっくり返していました。

これをみてひらめいたわたるは、心配してきてくれた捕手を追い返して試合を再開し、次の一球、突然アンダースローから天高くボールを投げ上げます。

唖然とするチームメイトと相手打者。

次の瞬間、上空のボールは突然急降下し、ストライクゾーンを縦に通過していきます。

蟻からヒントをえて、ハブボールを上下逆さまにひっくり返し、トップスピン回転で大きく落下させる球「スコールボール」にアレンジしたのです。魔球2号の誕生です。

(スコールは沖縄に降る集中豪雨です。)

スコールボールで三振を奪い、その試合も何とか勝つことができました。

ピンチをその場のひらめきで乗り越える90年代の古き良き野球漫画です。



凄さその1

もし、スコールボールに近い球を実際に投げられたどうでしょう?

全く打たれないのではないかと考えられます。

スコールボールの真のすごさはトップスピ回転による軌道変化ではありません。

ボールが垂直に近い軌道で落ちてくることです。

バットは水平に近い角度でスイングされるため、軌道が重ならず、点でとらえなければならないためまず当たりません。


垂直は当たらない球

近い体験があります。

いすの上に立ったチームメートに、頭上からゴムボールを落としてもらって打つティー打撃をやってみたことがあるのですが、まあ、当たりません。

雨の日に、軒先から落ちてくる水滴を打ってみたこともありますが、これもやはり空振りばかりです。

一度やってみると面白いです。

線でなく点でとらえなければならないのは本当に難しいです。野球経験者ほどミートポイントの前後位置でタイミング調整をする癖がついています。


作中でも、振っても振っても当たらない球として描かれていました。




凄さその2

また運よくバットに当たったとしても、強い打球を打つことができません。

本来のミートポイントで打つことができないからです。

作中では落下してきたスコールボールは、五角柱の立体ストライクゾーンの後端をかすめていきます

一方、打者が強い打球を打つためのミートポイントはホームベースの前端かそれより前です。

ボールが通過する位置と、打者にとって望ましいミートポイントは、前後に40センチ以上ずれています。


後ろで打つと

ホームベース後端の位置でバットに当てると、バットの角度的に、カットするときのようにベンチに飛び込むファールになってしまいます。

上体を後ろに下げて無理やり打てばフェアゾーンに飛ばせるかもしれませんが、強いスイングでないため力のない打球になります。

また軸足が完全にバッターボックスの外に出た状態で打つと反則でアウトになるため、立ち位置を後ろに変えることもできません。


前で打つと

では、高めのボールゾーンでもいいから、ホームベース前端の位置で打てばいいかというとこれも難しいです。

なぜなら垂直に近い軌道で落ちてくるため、その位置ではストライクゾーン上端よりもずっと上の位置にボールがあるためです。

どのくらい上を通過するでしょうか。



今回はスコールボールを現実に投げるとどのような軌道になるのか、計算してみます。


スコールボールの軌道計算

作中では細かい数値の記載はないため仮定の値で計算します。

球速は小柄な中学生がアンダースローから投げるため速くはない、回転数はハブボールのホップ具合から球速のわりに多いとして、以下の条件としました。

球速80km/h、回転数2000rpm、揚力係数CL=0.43, 抗力係数CD=0.30 (スピンパラメータSP=0.35)

軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。

参考にプロレベルの150km/hのストレートも併せて計算します。

[計算条件]




[計算結果]

計算結果は以下のようです。グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとのボールの位置を表します。


すごい山なりになりました。



地上2.6メートルのボール球

ミートポイントをホームベース前端(x=18.10m)とすれば、その地点でボールは地上2.64メートルの高さにあります。

ストライクゾーン上端はよほど長身の打者でも地上1.2メートル程度であり、このボールはそのゾーン上端のさらに1.44メートル上を通過します。

普通のスイングではバットは届きません。

剣道の面のようにすれば届くかもしれませんが、体の横回転を使わずに振ったバットでは強い打球は打てません。

スコールボールを本来のミートポイントであるホームベース前端側で打つことはできない、ということが確認できました。

84度で落下する球

スコールボールがストライクゾーンを通過するときの落下角度は84度になりました。

ほぼ垂直です。

打者のスイング角度を水平から10度とすれば、投球とは74度も軌道がずれていることになります。

スコールボールが点でしかとらえられない、バットに当てるのが難しい球であることも確認できました。

ノックでキャッチャーフライを打つ時のように無理やりバットの軌道を変えれば、線でとらえられるかもしれませんが、その時は芯でとらえても上がりすぎの内野フライにしかならないでしょう。



トップスピン回転=下への変化ではない

上のスコールボールの軌道計算結果をみると、ずいぶん丸っこい軌道です。

マンガのように真っすぐ上昇し、かくっと鋭角に方向を変えて落下し始めるような軌道ではありません。

これは回転による揚力(マグナス力)の働く向きによるものです。

トップスピン回転=下への変化、というイメージがあるかと思いますが、それはボールが水平に近い角度で飛んでいるときに限られます。

回転による揚力はボールの進行方向と垂直に作用します。

そのため上昇時は前方に、頂点付近でのみ下向きに、落下時は後ろ向きに作用します。

その結果、丸っこい軌道になります。

落下時に後ろ向き揚力が働くことで、より垂直に近い角度で落ちてきます。





コントロールできない球

さて、もし、今回計算したような軌道の球を実際に投げられたら、打者はどうにもできません。

見逃せばストライクで、振っても当たりません。

しかしながら、現実世界の打者はこのスコールボールの脅威に直面することはありません。

なぜなら、この球をストライクゾーン後端にピンポイントでコントロールすることは不可能だからです。

それどころかストライクゾーンを通すことすら至難の業です。


わずかにずれた場合の軌道計算

以前イーファスピッチとして計算したことがあるのですが、極端に山なりの球というのは、投げだす角度に加え、球速もぴったりと制御して初めて狙ったところへ投げられます。

どちらかが少しでもずれると、コントロールが大きく狂ってしまいます。

試しに、先の条件から投げ出し角度θが0.5度高くなった場合と、球速voが1km/h速くなった場合を計算すると、以下のようになります。

スコールボールのコントロール

+0.5度、+1km/hというわずかな差でも落下位置は大きく前後にずれ、ストライクゾーンを通過しなくなります。

試合で常用することはとてもできません。

もしやるならランナーなしで、0ボール2ストライクでダメ元で投げるのがいいと思います。打者も見なれない軌道なので、ストライクかどうかの判別がつかず、見逃し三振を嫌がってボール球でも振ってくれるかもしれません。




では、また。


2023年9月16日土曜日

第154回 東京ドーム天井直撃弾の打球速度はどのくらいか?

 

天井直撃弾

東京ドームで、天井に打球を直撃させたことのある選手は誰でしょうか?

大谷翔平選手、ゴジラ松井秀喜さん、55発アレックス・カブレラなど。

いずれも超がつくパワーヒッターばかりです。

天井の高さは計算上、打球が絶対当たらないように設計されました。

彼らは設計者の予想を上回る打球を打ってしまいました。


天井の高さ

東京ドームの天井の高さは、最高部で地上56.2メートルです。

グランド面は地面から下へ5.5メートル掘り下げられています。

そのため、グラウンド面から天井までの高さはこれらを足して61.7メートルとなります。(*1)

天井高さは一様ではなく大きな玉子のように湾曲しながら、ホームからセンター方向に向かって下がっていきます。

下図は、TOKYO DOME CITYホームページ記載の雨水貯留システム図(*1)を参考に推定した天井のラインをプロットしたものです。

センターフェンスの上では35メートルほどまで下がっています。


なお上図はセンターラインの断面でありレフト、ライト方向へ行くほどもう少し低くなっています。

また、旧スピーカー位置はネット画像からの推定です。


参考Web
 (*1)東京ドームシティHP
 https://www.tokyo-dome.co.jp/dome/about/


ラルフ・ブライアント

さて、天井直撃した選手と言われたら、近鉄バッファローズのラルフ・ブライアントを思い浮かべた人もいるのではないでしょうか。

彼が当てたのは天井ではなく、天井からつるされたスピーカーです。

(ひっかけ問題みたいですみません。)

そのスピーカー直撃弾は史上初の、認定ホームランになりました。

今はもうブライアント選手は引退し、近鉄はオリックスに吸収合併され、スピーカーは2016年の巨人創立80周年記念事業でより音質のよいものに替えられた際撤去されてしまいました。

さみしい気がしますが、ブライアント伝説はいつまでも残ります。



どこが当てやすいか

天井やスピーカーに当てるには相当高く、打球を打ち上げなければなりません。

そのためには大きな打球速度が必要です。

ホーム付近は天井高さが最も高いため当たりにくくなっています。

高さだけ考えればセンター方向に打った方が有利です。

しかしセンター方向へ行くほど、水平方向にも遠くまで飛ばさなければなりません。

一長一短です。

どこへ打っても大きな打球速度が必要になります。

今回は軌道計算で東京ドームの天井に当てるにはどのくらいの打球速度が必要であるか求めてみます。



東京D天井直撃弾の打球軌道計算

打ち出すときの打球上向き角度を80,60,45,40,30度と5パターンで変えて、それぞれで天井に当たるときの打球速度を求めます。

センター方向への打球で、毎分1500回転のバックスピン回転とします。


[計算条件]

軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は以下のようです。




[計算結果]

計算結果は以下のようになりました。

東D天井直撃弾

上向き80度、垂直に近いとても高い角度、で打ち出した場合、155km/h以上で天井に当たります。これは天井に当たらなければ浅い内野フライなるような打球です。

上向き60度、これもかなり高い角度、で打ち出した場合は160km/h以上です。これは当たらなければ大きな外野フライになります。

上向き45度の場合175km/h以上で天井に当たります。これは天井に当たらなければ、飛距離133メートルで特大のホームランとなります。

40度では182km/h以上が必要で、飛距離は143メートルです。これも当たらなければ特大ホームランです。

今回の結果によれば、ブライアントのスピーカー直撃弾はこのレベルかそれ以上の打球だったことになります。

認定ホームランになったのは正当な評価です。



遠くへ打つほど大きな打球速度が必要

低い角度で遠くに打つほど必要な打球速度は大きくなっていきます。

上向き30度では200km/h以上となりますが、この打球速度を出した選手は存在しません。実質的に当てるのは不可能です。

真上に打った方がより小さい打球速度で当てられます。

しかしこれも難しいです。

投球もスイング軌道も水平に近い中で、垂直に近い角度で打ち上げるためにはボールの中心から外れた位置を打つ必要があり、打球速度が出にくくなります。

プロの選手なら打球速度155km/hは珍しくありませんが、これをほぼ真上に向かって打てる選手はいません。

(そもそもそんな打球を打とうとしませんが)

つまりは、打球がどの角度で飛んでも当たりにくいようになっています。

センター方向に向かって天井が低くなっている形状は、打球が当たるのを回避するうえで実に理にかなっています。

もちろんこれはたまたまそうなっているわけではなく、計算ずくでそのように設計した建築家の匠の技によるものです。



では、また。